石川県の加賀友禅(かがゆうぜん)は、京友禅と並び称される技巧と美しさを兼ね備えた、我が国を代表する染色技法、および、その技法によって製作された着物のことを言います。
贅沢品の最高峰として扱われ、かつて、バブルのころには加賀友禅の作家が高額納税者に名を連ねたこともあるほどです。
ところが、現在では、着物の市場そのものが縮小したことなどもあり、長期低迷しています。
このままでは、日本の伝統文化がまた一つ消えてしまいかねません。
加賀友禅の危機を打開しようと、地元石川県では対策に乗り出しています。
石川県の加賀友禅とは
加賀友禅の概要
石川県加賀地方(金沢市)の加賀友禅は手書きによって描かれた、写実的な草花模様を基本とする絵画調の柄が特徴です。
京友禅が宮廷文化の中で豪華なスタイルに発展していったのに対して、石川県がかつて加賀と呼ばれていた時代、武家文化の中で育まれた加賀友禅は、落ち着いた風情をもっています。
写実性を強調するために、白く染めない部分を効果的に使い、また、ぼかしの表現、描かれている木の葉にあえて虫食い跡をつくるなど、独特の技法があります。
手書きが基本の加賀友禅ですが、型紙を使って模様をプリントする「板場友禅」という技法もあります。
加賀友禅の模様は一つひとつ職人が自らデザインし、自分の手で描くので、職人の技巧によって仕上がりが大きく左右され、製作者は単に職人ではなく作家としての位置づけをもっています。
作家の名前はブランドになり、人気作家になるとその作品の価格は数千万円を超える高級品です。
京友禅との違い
後でも触れますが、京友禅と加賀友禅の成立にはある一人の人物が大きくかかわっています。
元をたどれば同じ友禅からスタートしているとも言えます。
ただし、京都と加賀(石川県)という環境の違いにより、両者には明らかな違いが生まれました。
1.柄
加賀友禅 | 写実的な草花模様を中心とした絵画調 |
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京友禅 | 御所車や御簾など宮廷文化を反映した模様、豪華で雅な図案調 |
2.色彩
加賀友禅 | 加賀五彩と呼ばれる藍、臙脂(えんじ)、黄土、草、古代紫 |
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京友禅 | 淡青単彩調 |
3.ぼかし
加賀友禅 | 模様の外側が濃く、内側にいくほど薄くなる「内ぼかし」 |
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京友禅 | 模様の内側が濃く、外側にいくほど薄くなる「外ぼかし」 |
4.加飾
加賀友禅 | 染だけで仕上げ、刺繍や金銀箔などによる加飾をほとんどしない。 |
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京友禅 | 金銀箔、金糸・銀糸による刺繍など豪華な加飾をほどこす。 |
5.製作工程
加賀友禅 | 一人の作家が中心になって製作 |
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京友禅 | 完全な分業制 |
石川県の加賀友禅の歴史
加賀友禅誕生前
加賀友禅が誕生する前の16世紀ごろ、石川県にはすでに「梅染」と呼ばれる独自の染め技法がありました。
さらに、17世紀ごろになると、「兼房染(けんぼうぞめ)」や「色絵」、「色絵紋」の技法が確立。
これらを含めて、「加賀御国染(おくにぞめ)」と呼ばれています。
この中で、色絵紋は、家紋の周りを草花や幾何学模様で飾り立てる技法が発達。
「加賀紋」と名付けられ、職人が創造性と画力を競い合ってより精緻に、かつ、デザイン性が高まり、加賀友禅の原点になったと考えられています。
友禅が誕生する前に、石川県ではその素地が育っていたわけです。
友禅を大成した1人の人物
加賀友禅の成立に大きく貢献した一人の人物がいます。
江戸中期の人で、その名も宮崎友禅斎と言います。
もともとは、京都で活躍していた扇絵師で、京友禅を大成したのもこの人物。
つまり、「友禅」とは、宮崎友禅斎の名からとっているのです。
京友禅を大成した友禅斎は、後年、石川県で紺屋を営む太郎田屋に移り住み、御国染をベースに改良し、加賀友禅の基礎を確立します。
日本を代表する染め技法の大成に多大な貢献をした宮崎友禅斎ですが、謎の多い人物で生没年や背景は一切伝わっていません。
一説によると、石川県金沢市の生まれだったとも言われます。
自分が開発した友禅を故郷に持って帰り、錦を飾りたかったのかもしれません。
また、友禅斎自身は染め職人ではなくあくまで絵師。
繊細な筆致表現を可能にする友禅糊を開発し、デザインの基礎を作りましたが、実際に制作したのは染め職人です。
友禅斎はいまでいうデザイナーのような立場で活躍したようです。
近代の加賀友禅
江戸時代後期になると、型紙による摺込友禅、防染糊による型染などが導入され、分業制が進んでいきますが、依然として、作家による手書きを基本としていたため、量産化には向かず、他の染物に後れをとっていきます。
しかし、近代になると、確かな技巧と一点ものという希少性がかえって価値を生み、高級品としてもてはやされるようになりました。
1975年には、経済産業大臣によって伝統的工芸品に指定され、さらに、1978年には、石川県が県の無形文化財に指定し、保護育成を図っていきます。
バブルが崩壊すると、加賀友禅も長期低落時代に突入しました。
現在でも危機は去っていません。
着物市場そのものの衰退、後継者不足、新商品開発の遅れ、課題は山積です。
そんな中で、友禅の伝統と技法を残すべく、着物だけでなく、日用品や装飾品に友禅の技法を応用するなど、作家たちは新たな商品開発に取り組みはじめました。
石川県や金沢市でも「加賀友禅技術振興研究所」の開設などを通して、技術の継承、新商品開発、販路拡大などの振興策を図っています。
参考サイトURL:
協同組合加賀染振興協会
京都染織文化協会
「石川の伝統工芸」石川県中小企業団体中央会
「伝統工芸青山スクエア」伝統的工芸品産業振興協会
全国商工団体連合会
加賀友禅の商標登録情報
登録日 | 平成19年(2007)1月26日 |
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出願日 | 平成18年(2006)4月3日 |
先願権発生日 | 平成18年(2006)4月3日 |
存続期間満了日 | 平成39年(2027)1月26日 |
商標 | 加賀友禅 |
称呼 | カガユーゼン |
権利者 | 協同組合加賀染振興協会 |
区分数 | 2 |
第24分類 | 石川県の加賀地域に由来する友禅染を施し金沢市で生産された織物【類似群コード】16A01 |
第25分類 | 石川県の加賀地域に由来する友禅染を施し金沢市で生産された帯・長着【類似群コード】17A03 |