その際、依頼する弁理士をどのように選べばいいのでしょうか。
もし地方在住で、日ごろから付き合いのある弁理士が身近にいない場合、商標登録を成功させたいなら、東京で活動する弁理士を選ぶべきです。
なぜ東京で活動する弁理士なのか?
理由は3つあります。
- 地元の弁理士である必要がない
- 競争原理によりサービス品質とコストパフォーマンスが高まる
- 特許庁と直接・頻繁にやりとりできる
それぞれ説明しましょう。
地元の弁理士である必要がない
まず、前提として、商標登録の実務を考えた場合、地元で活動する弁理士である必要がないことがあります。
弁理士が扱う産業財産権にかかわる法律事務の中でも、特に特許については、登録作業自体が比較的に複雑で、弁理士自身にも技術の中身についてそれなりの知識が必要になります。
また、登録後も、特許侵害案件の処理や特許権の管理など、日常的に頻繁なやりとりが発生するため、密接なコミュニケーションがとれる地元の弁理士を選択するメリットがあります。
しかし、こと商標登録については、そこまでの煩雑さはありません。
事務手続きはもちろん、打ち合わせその他についても、弁理士と直接会う必要はなく、電話やEメールで事足りるので、いちいち時間をとって出向くより時間もコストも大幅に節約できます。
実際に、当事務所も東京を主な活動拠点としていますが、地方の方はもちろん、都内で営業する依頼者でさえ、最初の相談から登録完了まで一度も直接お会いしない場合が多々あります。
その場合は、電話とメールなどのやりとりですべて完結しています。
直接面談する必要がない以上、物理的な距離に縛られることなく、日本中、どこで活動する弁理士に依頼しても支障はないことになります。
すると、物理的な距離や環境ではなく、商標登録についての実績やノウハウで弁理士を選ぶことがより適切かもしれません。
そこに「東京で活動する弁理士に依頼するべき」という理由があります。
競争原理によりサービス品質とコストパフォーマンスが高まる
東京で活動する弁理士が、他地域の弁理士に比べて実績もノウハウもあるという根拠は、数の多さにあります。
日本弁理士会の2017年9月30日現在の弁理士事務所分布によると、東京を主たる拠点とする弁理士事務所は6121件で、これは日本国内全体の54.5%に当たります。
2番目に多い大阪の1670件の実に3.6倍です。
実質的に東京を主な日常活動圏内とする神奈川、千葉、埼玉県という、いわゆる「東京圏」を含めると7000件以上、率にすると60%を越えます。ほとんどの事務所が東京に一極集中状態と言っていいでしょう。
地方になると一気に数が減って、たとえば島根県ではたった2件、岩手県には3件しかありません。
このように、事務所の絶対数が少ないことで、商標登録についての処理実績も比例して少ないと考えられます。
なぜなら、弁理士によって扱う分野の得意不得意、処理件数の偏りがあり、基本的に、特許にかかわる案件を主としている事務所が多いからです。
法律上、弁理士は、産業財産権に所属する特許、実用新案、意匠、商標の4分野についての法律事務を扱うことができますが、実務上で圧倒的に多いのは特許です。
特許権の登録にかかわる事務処理は非常に煩雑で、件数も多く、継続性があり、報酬も高額だからです。
経営戦略としては必然的に、特許に関する案件が中心になります。というより、ライバルの少ない地方では、特許だけで手いっぱいというのが実情ではないかと思われます。
商標登録については、依頼があれば受けるといった状態でしょう。事業としてのボリュームも少ないので、積極的にノウハウも獲得しようという意識も高まらないのは当然です。
これに対して、東京は案件も多いけれどライバルも多いので、事務所の特色を出さなければ生きていけません。
その中で、誰もが狙う特許関係の案件をあえて避け、商標登録や実用新案などを主力とする事務所もあります。
地方では案件の絶対数がなく、主業務にはなりえない商標登録でも東京なら成り立ちます。そうして、当事務所をはじめ、商標登録を主力する弁理士事務所が登場し、それらが切磋琢磨することでノウハウが磨かれ、価格競争によってコストも抑えられる傾向がある、というわけです。
特許庁と直接・頻繁にやりとりできる
商標登録は東京を活動拠点とする弁理士に依頼すべき理由の3つ目は、商標登録を扱う特許庁のおひざ元である、ということです。
商標出願の申請窓口は東京都千代田区の特許庁本庁舎のみです。地方に外局などの窓口はありません。
日本全国、すべての商標出願は特許庁の受付に集約され、審査、承認するのも、特許庁に勤務する審査官のみです。
出願そのものは、郵送、もしくはオンラインで行うので、地方でも何の問題もありません。
しかし、特許庁の職員に直接、頻繁に会えるのは東京で活動する弁理士の特権といえます。
特許庁の職員に面識があれば、出願の際に優遇してくれる、などということはもちろんありません。
特許庁における商標登録の審査は厳正、かつ、公平に行われます。
とはいえ、審査の難しい微妙なケースがありますし、また、技術の進歩や社会文化の変容、ビジネス環境の変化などによって商標を取り巻く状況も刻々と変化します。
審査官としては、法律の大前提の上で、世の中の変化に合わせた審査業務の適正化に日々努力しています。
そうした中でも、大きな変化は広報などによって公開されていますが、審査官の中で暗黙知として積みあがっている微妙な基準の変化といったことは、基本的に公にされません。
運用基準について、審査官がぽろぽろ口にするわけでないものの、直接会って話を聞き、アドバイスを受けることで、肌感覚として伝わるものがあるのです。こうした情報収集が積み上がり、経験の差、ノウハウの差となって表れるわけです。
商標登録の実務はどの弁理士に頼んで一緒、ではありません。経験の違い、持っている情報の違いが如実に出ます。
その意味で、商標登録に関する情報の集積地である東京に活動拠点を置く弁理士は、有利な立場にいることは確かなのです。