商標登録の手続きを自力で行うのは賢明ではなく、専門家である弁理士に依頼すべきだというのが私の信念です。
その理由について、何度かこの連載で語っていたので詳細は省きますが、一言でいえば、慣れていない人がやると、手続き作業に時間と費用が余計にとられてしまう上、最悪は、時間や費用をかけても商標登録できないリスクがあるからです。
自分でやれば弁理士費用が節約できるといわれますが、果たしてその通りでしょうか。むしろ、書類や提出物の不備による修正作業が発生しやすくなり、余計に手続きを増やしてしまう可能性さえあります。
加えて、ノウハウがないために、本来なら商標登録できたはずのものが認めれない事態も起こりえます。よしんば、商標登録できたとしても、狙った通りに商標が守られないこともあるのです。
商標登録の手続きは誰でもできるとはいえ、それは制度上の話で、誰がやったかで結果は大きく違います。その際の大きなポイントの一つが区分指定です。
そこで、今回は区分指定とはどのようなもので、それがなぜ難しいのかということについてお話ししします。
区分指定とは何か
弁理士資格のない一般の方でも、商標登録の手続きを行うのは、制度上、可能です。
しかし、あまり現実的ではない、というのが実際のところです。
ネットで検索すると、「自分で商標登録しよう」と勧めているサイトがあります。
それらを見ると簡単そうに思えるかもしれませんが、それは商標登録というものの表層を見ているのにすぎません。
商標登録出願は行政手続きの一種であり、形式が厳格に決まっていて、関係する用語も聞いたことのない法律用語ばかりで、知識のない一般の方はとまどうと思います。
それでも、書式は決まっていますので、特許庁のホームページなどで公開されているひな形通りにやれば、何とか申請書類の作成を進めることができるでしょう。
ところが、最初に突き当たる問題が「区分指定をどうするか」ということではないかと思われます。
区分指定とは、商標を使用する範囲のことで、商品やサービスの分類ごとに、45類に区分けされているなかから、自社の商標をどこからどこまで保護するか、出願時に指定することになっています。
なお、特許庁が定める45類の区分については、下記に詳しく掲載されています。
商標登録すれば、すべての場面で商標が守られるわけではなく、指定した区分の範囲内だけが保護される、というのが商標法の大前提です。
せっかく商標登録できても、指定した区分の範囲内でしか保護されないので、区分指定の選定は極めて重要な作業になります。
たとえば、化粧品なら、第3類の「洗浄剤及び化粧品」、アパレルなら、第25類の「被服及び履物」といったところが指定区分に入りますが、それだけではありません。
化粧品だけでなく、化粧道具まで含めたシリーズ化をしている場合、化粧道具は分類が異なり、第21類の「家庭用又は台所用の手動式の器具、化粧用具、ガラス製品及び磁器製品」の中に入ります。
さらに、化粧品に加えて、アパレルや貴金属まで含めたブランド展開を考えて入れば、第25類の「被服及び履物」、や第14類の「貴金属、貴金属製品であって他の類に属しないもの、宝飾品及び時計」も指定範囲に含める必要があるでしょう。
このように、登録しようとしている商標について、1~45類のどこからどこまでを指定するべきか特定することが、非常に複雑な作業なのです。
区分指定の範囲をきめるのは複雑な作業
区分指定を適切にするためには、商標の使用実態をよくよく考えて、適した範囲を網羅しなければなりません。
しかも、現在の使用状況だけみていたらだめです。商標登録した後で、新商品が追加されるなどして、使用範囲が変わると改めて商標を取り直さないといけなくなります。
したがって、その商標を使う商品やサービスを今後どういうふうに伸ばしていきたいのか、あるいは、ブランディングをどのように展開していくのかを見据えた上で商標登録しなければ、せっかく登録できても無駄骨になってしまうのです。
それならば、あらかじめ、指定範囲をかなり広くとっておいたらどうなるでしょう。
たとえば、45分類のすべてを指定範囲にすれば、理屈の上では、すべての分類で商標が保護されることになります。
しかし、これにはいくつか問題があります。
まず、費用が余計にかかります。
商標登録出願の際、様々な名目で特許庁に手数料を支払うのですが、区分数が増えるごとに一定額が加算される仕組みです。
細かいことを抜きにして、45分類すべてを指定した場合、行政手数料だけで少なくとも167万円弱、かかる計算です。
さらに、すんなり商標登録できずに、審判請求や再審査をする際も、やはり区分数だけ加算されます。
これで終わりではありません。
商標登録は登録から5年ないし、10年の更新制であり、その際にも区分数に応じた更新手数料が必要。その額は、45分類すべてを指定したとすると、ざっくり言って約175万円かかることになります。
これはあきらかに無駄が多く、過剰投資です。
ついでに言えば、それだけかけても商標が完全に保護されるとは限りません。
なぜなら、いったん商標登録しても、使用実態がない状態がしばらく続くと、取り消しの対象となってしまうことがあるからです。
商標登録そのものが取り消されるわけではありませんが、実際には使っていない指定範囲について使用実態がないと判断されれば、指定区分の変更などが必要になる可能性があるというわけです。
区分をむやみに広げすぎず、適切で無駄のないように指定するためには、技術と経験がものをいうのです。
区分を指定すれば完了ではない
指定区分の範囲が決まったらそれで終わりではありません。
次のステップとして、実際に商標を使用する商品やサービスの内容、すなわち「指定商品」、「指定役務」を記載することになります。
どういうことか、実例をあげましょう。
当「アイリンク国際商標特許事務所」でも事務所名を商標登録しています。
この商標は、「法律事務」を行うために使っている商標なので、指定区分は第45類「冠婚葬祭に係る役務その他の個人の需要に応じて提供する役務(他の類に属するものを除く。)、警備及び法律事務」です。
ここで、商標登録の申請書類に、指定区分として第45類を記載しただけでは不十分です。これだけでは冠婚葬祭業なのか、警備業なのかわかりません。商標を使用するのは「法律事務」であることを明記したうえで、さらにどのような場面で商標を使うかを具体的に示すことが必要です。
下は、「アイリンク国際商標特許事務所」を商標登録したときに、実際に申請書類に記載した指定役務です。
(以下囲み)
工業所有権・著作権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務,著作権の利用に関する契約の代理又は媒介,種苗法に基づく品種登録に関する手続の代理その他の事務,インターネットドメイン名の登録に関する法律事務,知的財産権に関する情報の調査・収集・分析・管理,知的財産権の売買・ライセンス契約の仲介及び斡旋,知的財産権に関する情報の提供,知的財産権に関する助言及びコンサルティング
(囲み終わり)
商標の使用実態、今後の方向性から考え、過去事例や競合事例などを参考に、適切な指定商品、指定役務をもれなく記載することは、この作業に慣れていない人にとって難易度の高いことではないでしょうか。
さらに難しい類似群コード
指定区分をさらに複雑にしているのが類似群コードです。
特許庁が定める45分類の商品・役務区分は、国際標準をベースにしており、よく考えられたものです。
とはいえ、世の中に次々登場する商品やサービスは、区分の中に納まりきらないものも多くあります。
このために、45の分類とは別に、似通った性質を持つ商品や役務どうしを「類似群」として、アルファベットと数字によるコードによって紐づけしているのが類似群コードです。
指定区分だけではくくり切れない商品やサービスを、類似群というもう一つのフィルターをかけることによって無駄なくより分け、よりスムースかつ適切に商標権を保護するために考案されたもの。大変便利なものでありますが、半面、区分指定がより複雑化させています。
類似群コードを含めた指定区分、指定商品・指定役務の設定については、ある程度パターン化したものなので、感覚を掴めばさほど面倒ではなくなります。
が、自分で商標登録する人にとっては極めて難解でわかりにくく、それだけ苦労してもノウハウを築いても、次に生かせる場がありません。商標登録は自分でするより、慣れている弁理士に依頼するのが、やはりベターなのです。