商標登録出願の際、出願費用を支払わないままでいるとどうなるか

動画投稿サイトを通じて世界的なヒット曲となったピコ太郎さんの「ペンパイナッポーアッポーペン」(略してPPAP)に関連する商標が、無関係の第三者によって勝手に商標登録出願されていた問題で、出願人である大阪の会社「ベストライセンス」とその代表者の存在も世間に知られるところとなりました。

ベストライセンスの代表である上田育弘氏は、他人の商標を無断で大量に商標出願しているはた迷惑な人として、もうずいぶん前から弁理士の世界では有名でした。

上田氏は、商標出願する際に必要な出願手数料に支払い猶予期間があるという点を悪用し、出願手数料を支払わないまま、年間1万件以上にも及ぶ大量の商標登録出願を続けています。

その是非は、別の機会に論じるとして、よいチャンスなので、商標登録出願の際に必要な手数料を支払わないままでいるとどうなるか、今回のPPAP問題の実例を見ながら解説したいと思います。

目次

商標登録出願時に支払う手数料

本題の前に、商標登録出願の際に必要になる費用についてざっと説明しておきましょう。

商標登録出願においては、出願時点と、登録時点の2度、所定の手数料を特許庁に支払う必要があります。

ここでは、出願の際に必要な手数料についてのみ説明すると、その費用は、基本料として3400円、これに、区分指定のために、別に8600円がかかります(*手数料額はすべて2016年4月1日時点)。

区分指定とは、商品・サービスごとに、国際分類に基づいて特許庁が規定した45分類の中から、商標を使用する範囲を指定することを言います。

指定する範囲は出願人の自由ですが、1区分増えるごとに8600円が加算される仕組みです。

つまり、ざっくり言うと、出願の際に、最低でも1件あたり12000円の手数料を支払う必要があるわけです。

手数料についてさらに詳しいこと知りたい方は、下記を参考にしてください。

[POST_LINK id=”506″] 特許庁HP:産業財産権関係料金一覧

上田氏が出願手数料を支払わないわけ

上田氏、および、ベストライセンスが商標登録出願している件数は、年間で少なくとも1万件以上です。

下手な鉄砲方式で、新聞やテレビなどで見かけたワードを手当たり次第に登録しているようです。

もし、律儀に手数料を払うとなると、少なく見積もってもその費用は、年間1億2000万円以上ということになります。

実際には、年間の出願件数は14000件を超えたこともあるようで、また、指定区分も一つではなく複数のことが多いので、実際には2億円以上になるはずです。

さらに、上田氏はこんなことを数年続けているので、累計で言えば、未払い手数料は10億円程度と推測されます。

出願手数料を支払わない限り、商標登録されることはありませんが、ベストライセンスの上田氏の場合、商標登録を目的としていません。

ご本人によれば、商標登録出願の主目的は、商標を使用している人よりも先に出願することで、商標権の買い取りやライセンス料を請求することが狙いだということです。

すると、出願手数料をいちいち支払っていたら割に合いませんので、手数料を支払わないまま放置しておくわけです。

PPAPの出願手数料は現在のところ未納のまま

商標登録出願の際の手数料の支払いには一定の猶予期間があります。

上田氏はこの制度を悪用し、手数料を支払わないまま、商標登録出願の既成事実だけを作っておき、その必要が生じたときにだけ、改めて手数料を支払えば費用が最小限で済むと考えているようです。

別の記事で指摘しましたが、今回の、PPAPの商標登録出願の件でも、もし、上田氏が未納にしている出願料を支払ったとしたら、商標登録される可能性がゼロではありません。

実際には、上田氏の出願が認められる可能性が低いとはいえ、出願料が支払われれば、特許庁としては手続き上、審査しないわけにはいかないのです。

出願手数料を支払わなければ、不正出願としていずれ却下されるはずのところ、審査している間は出願中のまま継続されますので、問題をずるずる引き伸ばされる可能性があるわけです。

気になるのは、上田氏が出願手数料を支払ったかどうかですが、2017年1月26日付の情報では、まだ支払われていないようです。

放置すれば6カ月で出願が却下

さて、本題です。

特許庁に出願手数料を納付しないままでいるとどうなるか、今回のベストライセンス社によるPPAPの商標登録出願のケースで説明しましょう。

なお、ベストライセンス社、ならびに、上田育弘氏は、PPAPだけではなく、関連する商標を複数出願していますが、ここでは、2016年10月5日付で出願された最初のケースで見てみます。

特許庁が公開している審査記録によると、以下のようなやり取りが記録されています。

(以下はj-platpatのHPから)

  1. 願書:差出日(平28.10.5) 受付日(平28.10.5) 要指令 作成日(平28.10.6)
  2. 手続補正指令書(出願):起案日(平28.10.24) 発送日(平28.11.18) 作成日(平28.10.24)
  3. 再送:発送日(平28.12.8) 作成日(平28.12.8)
  4. ファイル記録事項の閲覧(縦覧)請求書:受付日(平28.12.16) 作成日(平28.12.16)
  5. ファイル記録事項の閲覧(縦覧)請求書:受付日(平29.1.16) 作成日(平29.1.16)
  6. 通知書(却下処分前通知):起案日(平29.1.25) 発送日(平29.1.26) 作成日(平29.1.25)
  7. 通知書(却下処分前通知):起案日(平28.12.27) 発送日(平28.12.28) 作成日(平28.12.27)

(以上)

出願の受付日が2016年10月5日、その2週間後の10月24日に、「手続補正指令書」を特許庁が起案・作成しています(発送は11月18日)。

手続補正指令書とは、商標登録出願した書類や手続きに不備があるから、訂正しなさいという指令です。

この場合は、「手数料を支払いなさい」という通知のことでしょう。

出願から2カ月後の12月8日には、同じ手続補正指令書が再送されています。

このように、出願手数料を支払わないままでいると、だいたい1カ月ごとに、催促がきます。

そして、出願から3カ月目の2017年1月26日と28日、2度続けて通知書(却下処分前通知)が出願人に送付されています。

却下処分前通知とは、出願自体を却下するという通知です。

それでも手数料を支払わないと、1か月後、出願は自動的に却下されます。

通常、却下処分前通知は、出願日から5ヶ月で出され、6カ月で却下確定という流れになります。

今回のケースの場合、少し早いようです。

そろそろ真剣に議論する時期

上田氏は、年間1万件以上の商標登録出願をし、そのほとんどのケースで手数料を支払っていませんので、特許庁ではこのやり取りを延々とさせられていることになります。

手続き上、やむを得ないこととはいえ、書類の作成や発送にかかる特許庁職員の手間、経費だけでも相当な無駄が生じているはずです。

この無為な作業を膨大にやらされる特許庁職員の徒労感は察してあまりあります。

現状では、上田氏のような制度を悪用した商標登録出願を防止する手だてがありませんが、そろそろ真剣に議論が必要ではないかと個人的には考えます。

※その後、特許庁は2017年6月21日、「手続上の瑕疵のある出願の後願となる商標登録出願の審査について(お知らせ)」を発表しました。
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