若い女性に人気のファッションブランドを展開するサマンサタバサジャパンが自社のブランド名と一字違いの「サマンサタバタ」を商標登録出願していたことがわかりました。
いったいなぜ1字違いの商標をわざわざ出願するのでしょうか。
その意外な意図と効果について考えてみました。
類似商標出願の防衛策
今回、同社が商標登録出願した「サマンサタバタ」は、本来のブランド名である「サマンサタバサ」と1字違い。
紛らわしい商標をわざわざ商標登録出願した理由は何なのでしょうか。
同社ではその理由を公言していませんが、状況を整理すると、類似の商標が出願されるのを防ぐ防衛策と考えられます。
引き金になったのは、スイスの高級時計メーカー、「フランクミュラー」が、日本の時計ブランド「フランク三浦」の商標登録を無効であると訴えた件があると思われます。
この裁判では、パロディ商品がどこまで認められるのかが焦点になりました。
フランク三浦が、本家「フランクミュラー」の権威や知名度を利用しているのは明らかでしたが、商標法で禁じているのは、あくまで消費者の誤認を招くような紛らわしい使い方です。
その点、「フランク三浦」の商品は、本家フランミュラーとは似ても似つかないもので、消費者もパロディ商品、ジョーク商品であることを知って購入しているとして、フランクミュラーの敗訴が決定。「フランク三浦」の商標登録が認められたのです。
この問題の経緯は下の記事で詳しく解説しています。 このフランク三浦のケースが引き金になったと考える根拠は、判決が出た日と出願日の関係にあります。 判決が出たのは今年3月2日、サマンサタバサ側が「サマンサタバタ」の商標を登録出願したのは3月13日付です。 つまり、フランク三浦のケースの決着したのを見届けてから、商標登録出願に踏み切った可能性があるわけです。 もう一つ、フランク三浦のケースが引き金になったと考える根拠は、「サマンサタバサ」のパロディ商品が実際に存在するからです。 その名も「サマンサ田端」。 カタカナ表記にすれば、まさに、今回同社が商標登録出願した商標そのものです。 サマンサ田端を販売しているのは、ジョーク商品を得意とする衣料・ファッション小物メーカー「伊藤製作所」という都内の会社。 奇抜なデザインのオリジナルTシャツなどを中心に製造販売している同社が販売しているのが「サマンサ田端」のロゴが入ったトートバックです。 高級バックを扱う本家では絶対に商品化することはないだろう、綿素材のトートバックで、サマンサ田端のロゴもフェルト記事で縫い付けてあり、いかにもチープなつくりを逆手にとって、自社の売りにしているのです。 サマンサタバサを意識しているのは明らかですが、消費者の誤認を誘う目的ではなくジョーク商品としての位置づけ。 しかし、フランク三浦の商標登録が認められたことを考えると、仮に、伊藤製作所側がサマンサ田端の商標を出願したら登録できてしまう可能性があります。 このため、サマンサタバサ側が事前に自ら類似商標を登録出願することで、第三者が出願することを阻止した格好になります。 類似商標の出願を阻止するため、自ら類似商標を予め商標登録するケースは度々あります。 人気の腕時計ブランド「G-SHOCK」の商標を保有するカシオ計算機が、「A-SHOCK」から「Z-SHOCK」まですべての商標を登録しているケースなどが有名です。 商標法では、先願主義といって先に商標出願した人の権利を優先する規定があるため、誰かに出願される前に自ら類似商標を出願しておけば安心というわけです。 しかし、それで他者による類似商標の出願を完全に阻止できるかというと実は少し微妙です。 なぜなら、商標は実際に使用実態があるか、あるいは、使用を予定しているものでなければ、商標登録が取り消される可能性があるからです。 このままいけば、「サマンサタバタ」の商標登録が認められる可能性は高いでしょう。 しかし、同社が自らのブランド名の一字違いの商品を実際に発売したらブランドイメージを損なうリスクが高いため、「サマンサタバタ」という商標で商品の販売をできるはずもなく、したがって、将来においても実質的に商標の使用の意図はないと考えられます。 そうなれば、せっかく商標登録できても取り消されることになりかねないわけです。
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フランク三浦のケースが引き金か
他者による出願を完全に阻止できるかどうかは未知数