埼玉県がご当地キャラとして採用しているマスコットであるコバトンとさいたまっちの商標登録を検討していることがわかりました。
ゆるキャラブームに乗ってご当地キャラは各地で盛況を博しており、いまや地域行政にとってなくてはならない存在になってきた感があります。
それにともないマスコットの扱いにかんするトラブルも増加しています。
今回はご当地キャラと商標登録について考察してみました。
他者からの権利侵害を防ぐために商標登録は有効
コバトン、さいたまっち、ともに県のマスコットに採用されていましたがともに商標登録されていませんでした。
ご当地マスコットの使用権は県内の産業振興やご当地ブランドのPRのために一般に開放する流れがあります。
しかし、商標登録されていないままだと、県外の第三者が先に商標登録してしまう事態も発生しかねません。
6月14日の県議会で、一人の議員から県民共有のブランドとして守るべきとの指摘に対し、県では他者からの権利侵害を防ぐために商標登録する意向であることを示していました。
ご当地キャラブームの一方で、マスコットの扱いをめぐるトラブルも増加しています。
背景にはキャラクターを管理する行政機関が知財関係の取り扱いに不慣れなこともあるようです。
本来、マスコットの権利を守るためには商標登録が不可欠ですが、著作権のみで対応可能と勘違いしているケースが多いようです。
商標登録していなかったひこにゃんのケース
ご当地キャラをめぐるトラブルについては、滋賀県彦根市のご当地キャラひこにゃんに関するものが知られています。
ひこにゃんはご当地キャラブームの走りであり、全国的に知名度の高いマスコットですが、同時に、マスコットキャラクターの権利をいかに扱い、保護するべきかを知るための貴重な先例ともなりました。
ひこちゃんは2007年に彦根市で開催した国宝・彦根城築城400 年祭のマスコットキャラクターとして制作されたものです。
原案を作ったのは市内在住のデザイナーです。
応募に際しては、採用された作品の著作権が国宝・彦根城築城400 年祭実行委員会も帰属する決まりになっていました。
委員会では原案者のデザインを元に着ぐるみ制作するとともに、キャラクターを無償で開放。
一定の条件を満たせば誰でも使用許諾を出すことにしました。
大会実行前から、かわいらしいキャラクターの魅力で人気が出始めていたひこにゃんの需要は高く、多くの業者が採用。一気に露出が増えひこにゃんの人気もあって、400年際は大きな成功を収めたのです。
ところが、大会終了後、原案を提供したデザイナーからひこにゃんの扱いに不服がていされました。
最初の公募の際、デザイナーが提出した原案は3タイプのイラストのみでしたが、使用許諾の範囲を設定していなかったために、後ろ姿やしっぽがついたパターンなど原案者の設定にはない多くのデザインが二次創作されていったのです。
マスコットに採用された時点で著作権は委員会側が買い取った形になっていますが、原案者は「委員会に使用を許諾したのは3 点のイラストのみ」と主張し、委員会を民事調停に提訴する事態に発展しました。
最初に、原案者との間で使用許諾の範囲を設定していなかったことが問題の原因になったのです。
その後、両者の間で和解が成立。
ひこにゃんの文字商標とイラストがそれぞれ商標登録され、使用できる絵は原案者が最初に作った3種類のデザインのみに限定することで、決着しています。
著作権だけでは権利侵害を予防できない
マスコットキャラクターのデザインや名称は、著作権法でもある程度の権利侵害から守ることはできます。
著作権は関係機関への登録や認可を必要とせず、創作した時点で発生するため、比較的容易に入手できる権利であるとも言えます。
それだけに行使する力も弱く、権利の範囲や所在、何を持って権利侵害とするのかなどあいまいな部分があり、係争のもとになりやすいと言えます。
模倣品の登場や、第三者による侵害を防止するのは著作権だけに頼るのではなく、商標登録や意匠登録をしっかり行い、商標権など実効性のある法律で保護することが重要です。