USJが販売しているグッズに、自分の商標が無断で使われているとして、ファッションブランドを運営する大阪の男性が、販売差し止めと損害賠償を求めて大阪地裁に提訴。10月12日に第一回の口頭弁論が行われました。
よくある商標侵害訴訟ではありますが、今回のケースで特異なのは、商標を侵害されたと訴える男性のブランドに比べて、訴えられたUSJ側が知名度、ブランド力ともに圧倒していることです。
USJ側に模倣の意図はなかったようですが、男性の商標と似ているのは確か。とはいえ、知名度があるのは圧倒的にUSJ側というこのケース。今後の行方はどうなるでしょうか。
訴えられたのは米映画の人気キャラクターグッズ
男性が商標侵害を訴えたのは、USJが販売している「ミニオンズ」関連のグッズです。
「ミニオンズ」は、アメリカの映画製作会社「イルミネーション・エンターテインメント」が制作する3DCG映画に登場するキャラクターで、ずんぐりした黄色いからだ、ぎょろ目にゴーグル、おそろいのジーンズのオーバーオールというコミカルなスタイルが特徴。
2010年公開の『怪盗グルーの月泥棒』で初登場し、シリーズ作品に欠かせないキャラクターとなり、後に「ミニオン」をメインキャラクターとしたスピンオフ作品も公開されています。
まあ、とにかく人気のキャラクターです。
その人気にあてこみ、USJは2016年、ミニオンたちが暮らす街をテーマにしたアトラクションをオープンしました。
この際、「ミニオンズ」関連のグッズも大量に制作され、園内で販売されているわけですが、そこにまったをかけたのが大阪でファッションブランド店などを経営する男性です。
自らデザインした衣料に使っている商標を、USJが侵害しているとして、販売の差し止めと、1500万円の損害賠償を訴えたのです。
商標のスペルは確かに同じ
問題となっている商標は、「BELLO」(ベッロ)。
イタリア語で「いい男」を意味する形容詞であり、男性が経営するファッションブランドメーカー、Karmaでデザインした衣料品に使用されている商標です。
同社が運営する大阪市内の直営店「Boutique de Bonheur」ほか、ネット通販などでも販売している実績があり、2010年に男性自身の名義で商標登録されています。
これに対して、USJ側がミニオンズグッズに使用している商標は「BELLO!」。
確かにスペルは同じです。
が、USJ側は口頭弁論で全面的に争う姿勢を示しました。
USIの主張によれば、「BELLO」という単語は、ミニオンたちが映画の中で使う独特の言語「ミニオン語」として使われているものの一種で、模倣ではないというのです。
確かに、スペルは同じでも発音は「ベロー」であり、「ハロー(hello)」を意味する言葉として作中で使われています。
男性がデザインしたファッションブランドの商標とは字体も異なり、消費者の混同を招かないというのがUSJの言い分です。
商標権を持つのは男性側だが
この裁判の行方はどうなるでしょうか。
一般論で言えば、男性側が有利な状況にあります。
USJ側が使っている「BELLO!」は映画の中で使われるセリフで、そのセリフを考案したのはアメリカの制作会社です。対して、大阪のファッションブランドは国内でさえそれほど有名というわけでもありません。USJ側に模倣の意図がなかったのは明白です。
しかしながら、商標法では、商標の成立の背景や意味などは問われません。また、模倣の意図があったかどうかも関係ありません。結果的に見た目の外形的な特徴が似ているかどうかが問われます。
何より、先に商標登録しているのは男性の商標です。商標が使われた経緯や実態はどうあれ、先に商標登録した側に商標権が発生するのが商標法の大原則です。
つまり、男性側の訴えはまったくもって正当であるといえます。
とはいえ、裁判で必ず勝てるかというと微妙です。
問題は消費者が出所を混同する可能性があるかどうか
「BELLO」という商標の商標権を持っているのは大阪の男性であり、独占使用権があるのは間違いありません。
しかしながら、男性側が求めているミニオンズグッズの販売中止や損害賠償が認められるかというと話は別です。
ここで重要なのは、商標の重要な機能である「出所表示」です。
商標がなぜ企業の財産になるのかというと、その商標を見ただけで、どこの会社が作っている商品か、誰でも一目で判断できるというところにあります。
当然、それだけの信用と知名度を築くためには、長年にわたる努力と投資が必要であり、したがって、商標は企業の重要な資産として守られなければならないわけです。
そこで、今回のケースを見てみましょう。
男性が「BELLO」を商標登録したのは2010年、「ミニオンズ」が映画に初めて登場したのがやはり2010年です。
時期的にはほぼ同じか、男性の立ち上げたブランドのスタートがやや早いぐらいですが、まだ歩み始めたばかりのブランドに対して、一方は、ハリウッドが大金を投じて制作したアニメ映画です。
その後、男性の始めたファッションブランドは人気になり、商標の知名度も向上していきましたが、同時期、ミニオンズを扱った映画は複数回公開され、いずれも世界的にヒットしました。
ここで問題になるのは、「BELLO」の商標を見た消費者が、出所を混同することがあるのかどうか、ということです。
訴えが認められるか微妙
つまり、USJに遊びに来て、園内のショップでミニオンズグッズを手に取ったお客さんが、そこに書かれている「BELLO!」の商標を見て、「これは、大阪のKarmaが作った商品だ」と勘違いするか、ということです。
おそらく、その可能性はほとんどないと言っていいでしょう。
つまり、商標侵害は認められたとしてもKarma側に損害は発生していないと考えられます。
また、商標権は、使用実態ではなく先に登録した側が優先権をもつのが大前提ですが、一つ例外があります。
例外とは、別の第三者が登録した商標とまったく同じか、類似している商標をすでに使用しているケースです。
別の第三者による商標登録時点である程度の使用実態があり、知名度も獲得している場合、商標権を主張することはできませんが、商標を使い続けることは認められる可能性があるのです。
今後、裁判の中で、それぞれに証拠の提出が行われるはずなので、その議論を経なければ確実なことは言えませんが、現在の状況を俯瞰すると、少なくとも損害賠償は認められにくく、商標の使用差し止めも認められるかどうかについても微妙な判断になりそうです。