競合関係にあるメディア企業の商標を、ライバル社が無断で商標登録したのではないかと議論になっています。
商標を勝手に登録されたと訴えているのはVRをテーマとした情報サイト「MoguraVR」の運営などを行うMoguraという会社。
ライバル関係にあるスパイシーソフトという会社が「MoguraVR」をMogura社に無断で商標登録してしまったというのです。
このままではMogura社は、自社の商標である「MoguraVR」を使えなくなるばかりか、損害賠償を請求される可能性もあり、特許庁に対して商標登録の無効審判を請求したことを明らかにしました。
事実だとすれば、ライバル社に対する露骨な嫌がらせです。
いったいどうしてこのようなことになったのか、無効審判の行方は、Mogura社は自社の商標を取り戻せるのでしょうか。
商標登録したのはライバル社だった
MoguraVRは、代表で編集長の久保田瞬氏が立ち上げ、VR・AR情報に特化したニュースサイトとして、2015年2月にはリリースされていたと主張しています。
会社の設立はそれより遅く、2016年8月ですが、いずれにしてもVR関係のニュースメディアとしては比較的に先発のサイトと言われています。
ところが、サイト名、会社名とも、商標登録していなかったことが災いしました。
今年9月、無関係な第三者が「MoguraVR」を自分の商標として勝手に登録してしまったという情報が入ってくるまで、Mogura社側は事態を把握していませんでした。
あわてて事実を確認すると、確かに、2016年10月に「MoguraVR」が商標登録出願されており、2017年7月14日付で商標登録が完了しています。
さらに、商標を出願した会社の名前を見て、Mogura社側は驚愕します。
よく知っている会社でした。
その会社の名がスパイシーソフトです。
スパイシーソフト社は、本社所在地、電話番号、経営者氏名など、すべて非公開というちょっと変わった会社ですが、1999年設立で、アプリ交換サイトの運営や通信ゲームの開発もとなどとして業界では知られた存在。
問題は、スパイシーソフト社が行っている様々な事業の中で、「MoguraVR」と完全な競合関係にあるメディアサイト「VR Inside」の運営も行っているということです。
お互いが競合関係にあるメディアサイトですから、相手の存在を知らなかったとか、たまたま似てしまったとは考えにくい状況です。
状況から推測すると、ライバル社が商標登録していなかったことを知って、ちゃっかり商標登録してしまったと考えるのが妥当でしょう。
Mogura社側もそう考え、今年10月23日付で特許庁に無効審判請求書を申請し同30日に受理されたことを自社サイトで報告しています。
ちなみに、「受理」というのは、無効の訴えを認めたということではなく、無効審判請求を事案として審理することを決定したということであって、判断が下されるのはこれからです。
無効審判請求は認められるか
Mogura社側は、スパイシーソフト社による商標登録は、Mogura社の業務を妨害する目的であるとのこと、下記の通り断定しています。
不正の目的に基づいた剽窃的行為と評価されるべきものであり、社会の一般的道徳観念に反し、公正な商取引の秩序を乱すものであって、公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある
これに対して、スパイシーソフト社側は、ねとらぼなどの取材に答える形で、次のように公式見解を寄せています。
VR Inside編集部です。
弊社は適正な出願を行い、特許庁から登録査定を受け、正式に商標登録をしております。
先方様は、長期間にわたり出願するタイミングがありましたが、何らかの理由で出願をされていらっしゃりませんでした。
また、商標掲載公報から2月以内に可能であった登録異議申立も行われていなかったようです。
そのような背景もあり、弊社の商標登録を不正とすることは、難しい主張と考えております。
以上を公式コメントとさせていただきます。
引用元:
「アプリ★ゲット」のスパイシーソフト、競合メディア「MoguraVR」の商標取得していた 露骨な“競合つぶし”ではとの声も
審判の結果がどうなるか、特許庁の判断を待つしかありませんが、一般論でいうと、Mogura社側の主張が認められる可能性は十分にあると考えられます。
まず、「弊社は適正な出願を行い、正式に商標登録をしている」ということですが、もし、MoguraVRの存在を知りながら、自社に商標権がないにもかかわらず、商標出願を行った場合、不正出願とされる可能性があります。
商標法では、他人の商標の先取りとなるような商標登録を認めていません。
他人に特許権や商標権のある知的財産権を、自分のものであるかのように出願することを「冒認出願」といい、法律で禁止されています。
商標出願時点では、その商標が他人に使用権のある商標なのか、調べる手立てがないので、書類に不備がなく、似たような商標が先に登録されていないなど、一定の要件を満たせば商標登録を認めるのが特許庁の立場です。
ということは、「正式な審査を経て登録されたのだから正当な出願である」と言い切ることはできず、後から事実が発覚すれば取り消しになるのです。
また、スパイシーソフト社側が主張している「商標掲載公報から2月以内に可能であった登録異議申立」というのは、商標登録異議申立制度のことです。
商標登録されると、その情報はすべて商標掲載公報によって一般に公開されますので、その日から2か月以内に限り誰でも(つまり、商標権者でなくても)登録に不服があれば異議申立できると商法で定められています。
とはいえ、この期間を過ぎてしまえば一切異議は認められないということではありません。
したがって、「弊社の商標登録を不正とすることは、難しい主張」と言える根拠はないことになります。
大切な商標を先取りされない唯一最大の防御策
今回の件は、Mogura社側の主張の通りなら、スパイシーソフト社の商標登録の無効が認められる可能性は十分にあると考えられます。
しかし、絶対ではありません。
無効が認められない可能性も残されています。
そうなった場合、相手側の出方によって、Mogura社は商標が使えず、2年間続けてきたニュースサイトのタイトルを変更しなければならないかもしれません。
もし本当に、相手側に業務を妨害する意図があるなら、そのような主張を展開する可能性を否定できないでしょう。
仮に、商標登録の無効が認められなくても、商標出願以前からMogura社が商標を使っていたことが立証できれば、先使用権が認められることもあります。
先使用権とは、たまたま似た商標が先に登録されてしまったときの救済処置のようなものです。
自分自身も出願以前からその商標を使用し、一定の認知を得ていれば、商標権を主張することはできないけれど、使い続けることはできる、というものです。
しかし、それにしても商標の使用は大幅に制限されることになります。
自分が立ち上げ、大切に育て、やっと認知されるようになった商標を自分が満足に使えない。
そんな事態に陥りかねないのです。
このような事態にならないためにはどうしたらよいでしょうか。
一刻も早く商標登録するしかありません。
商標登録は早い者勝ちが原則です。
今回の件が、必ずしもそうだというわけではありませんが、ライバル社が嫌がらせや業務妨害を目的に勝手に商標登録してしまえる、という現実もあります。
相手の商標登録を取り消し商標権を奪い返す手立てがないわけではありませんが、無効審判請求など面倒な手続きを経なければならず、多大な労力と費用がかかります。
これに対して、商標登録にかかる労力と費用は、いかほどでしょうか。
出願作業を弁理士事務所に依頼すれば、出願人本人は特にやることはありません。
基本的には、待っているだけで良いのです。
費用についても、特許庁に支払う行政手数料と弁理士への報酬を合わせて、費用がかかったとしても30~40万円、安く上がれば15,6万円といったところです。
商標登録をしないで放置しておくことのリスクを思えば、お安い費用だと私は考えるのですが、いかがでしょうか。
参考:
【お知らせ】スパイシーソフト社保有の商標「Mogura VR」への無効審査請求の提出について
「アプリ★ゲット」のスパイシーソフト、競合メディア「MoguraVR」の商標取得していた 露骨な“競合つぶし”ではとの声も