アメリカの人気歌手、ビヨンセさんと、その夫でやはり人気歌手のJZさんが、夫妻の娘の名である「ブルー・アイビー・カーター」を米商標当局に登録出願していたことがわかりました。
米ファッション誌『ヴァニティフェア』が2月3日に報じたものです。
娘の名を冠した美容・ファッション関連の新ブランドを立ち上げる計画だと言われています。
かわいい娘の名前でブランドを作りたいという親心なのでしょうか。
いえいえ、違います。
背景にあるのは、巨大ビジネスに成長したアメリカの商標権ビジネスの存在です。
日本ではまだ知財を活用してビジネスを展開するという意識が低いですが、アメリカではすでに商標で稼ぐのが常識です。
5年前にも商標登録に挑戦していた
ショービジネスの世界で成功を収めたセレブが、自らのプロデュースするブランドに自分の名を商標として使うのはよくあることです。
今回の場合、注目を集めたのは、ビヨンセ、JZ夫妻の愛娘、ブルー・アイビー・カーターさんはまだ5歳の幼児ということです。
さらに、驚くのは、夫妻は2012年にも一度、「ブルー・アイビー」として商標を登録しようとしていたのです。
いまから5年前ですから、つまり、当の本人は生まれたばかりの赤ちゃんです。
このときは、すでに別の人が同じ商標で商標登録していたために断念。
そして今回、フルネームで商標登録に再チャレンジしたというわけです。
有名人の商標はそれ自体がビッグビジネスになる
いったいなぜそんなにしてまで、娘の名前を商標登録しようとしたのか、それは、商標の権利をいち早く保護するためです。
アメリカで活躍する歌手やモデル、タレントなどのセレブの間では、自分の名前やシンボルマークなどを商標登録し、商品ブランドを立ち上げたり、ライセンシービジネスに乗り出したりと、商標を使って大いに稼いでいます。
名声を獲得した人の商標は、それ自体が大きなビジネスになりえます。
裏を返せば、せっかく名声を得たのに、自分の商標を保護しないまま放置しておくと、ビジネスチャンスを逃すだけでなく、第三者にいつの間にか利用されてしまうかもしれません。
つい先日も、往年の人気歌手、カイリー・ミノーグさんと、若手人気タレント、カイリー・ジェンナーさんが、共通のファーストネーム「カイリー」の商標を巡って係争になっていたことが報じられたばかり。
有名人の名前はビッグビジネスになり、それゆえに、自覚をもってしっかり権利を保護しないと余計な争いに巻き込まれることにもなりかねないわけです。
商標権ビジネスでもっとも成功した代表例
日本でも、芸能人やタレントがブランドをプロデュースするなど、自分の名前を使ってライセンスビジネスを展開することぐらいはありますが、アメリカはもっと先を行っています。
1970年代から1980年代にかけ、世界中を席巻した伝説的なロックバンド「KISS」は、商標権ビジネスによって多大な成功を収めた代表例として非常に有名です。
1973年にメジャーデビューした当初から、KISSのメンバーたちは「自分たちの活動はアートではなく、ビジネスだ」と自覚していたと言います。
芸能人が自分の商標を使ってビジネスをするという認識がアメリカでもまだ珍しかった当時、いち早く、バンド名と特徴的なフェイスペイントの図柄を商標登録しました。
バンドの楽曲がヒットし、人気がでると関連グッズも続々作られ、デビューから現在までの間に商品化されたものものは、約5000種に及ぶといいます。
ライセンスビジネスだけで10億ドルを稼ぎ出したKISS
それらグッズからもたらされるライセンス収入は巨額に上るのは明らかです。
本人たちは一切、金額を明かしていないものの、アメリカ国内のメディアの試算によると、KISSのメンバーが稼いだのは、CDやライブチケット売上、楽曲の著作権など音楽活動によるものを除いたライセンスビジネスだけで、推定で10億ドル(日本円で約1150億円)に上ると言われます。
音楽活動による収入はそれを上回る莫大な額に上るものの、CDの売上の多くはレコード会社がとっていくわけですし、ライブ活動をやる場合でも、会場費やセットの設営費、会場警備、広告宣伝費、それらをまかなう人たちへの人件費などコストも莫大にかかります。
この点、ライセンスビジネスは何もしなくても収入が入ってきて、かつ、その収入のほとんどは利益です。
想像ですが、おそらく、メンバーの手元に残る純粋な手取り収入という意味では、音楽活動よりも商標からもたらされるライセンス収入のほうがはるかに多いのではないでしょうか。
日本でも商標権が大きなビジネスになる時代がくる
日本では、エンターテイメント業界に限らず、全般的に知財の活用について、まだまだ無頓着です。
有名になってから慌てて商標登録しようとするケースがほとんどですが、本来は、商品やサービスを開発するときには、先々のブランディングまで考えて戦略を練るべきでしょう。
大企業であれば、そういったことを熟知しており、商品を発売する前から商標登録をしておくのがもはや常識になっています。
問題は中小企業です。
中小企業こそ、ブランディング戦略を踏まえたうえでの商品戦略なり、販売戦略を考えるべきです。
もっと言えば、ライセンスビジネスは今後、商品の販売やサービスそのものよりも大きなビジネスになると考えられます。
いわゆる、モノからコトへの時代の転換がすでに始まっています。
船橋市の非公認キャラとしてブレイクした「ふなっしー」がなぜあれほど人気になったのか、考えてみてください。
「ふなっしー」を有名にするためにかかった費用は、着ぐるみの製作費だけです。
ブランドを確立することによって、商品開発そのものよりはるかにコスト効率がよく、売上も利益も高いことがわかると思います。