著名な高級時計メーカーの商標をもじった呼称を使いながら、本家と似て非なる路線を貫く異色の時計ブランド「フランク三浦」、その商標の登録を巡る注目の裁判が2016年4月に行われました。
明らかに他者の商標を意識しながらも、決して消費者の誤認を狙ったものではない、いわゆるパロディ商品に対して、知財高裁はどのような判決を下したのでしょうか。
ミュラーと三浦は似ていない
問題の時計を販売する大阪市の会社が、商標の登録を無効とした特許庁審決を取り消すよう求めた訴訟で、知財高裁は2016年4月12日に商標は有効であるという判断を下しました。
世界的に知られる高級腕時計フランクミュラーをもじっているのは明らかです。
このために特許庁はフランク三浦の商標としての登録を無効と判断していました。
しかし、裁判では「読み方は似ている」としながら、本家のミュラーに対し、漢字の三浦は明らかに異なり、ロゴもあえてつたない手書き風であることから、両者は「明確に区別できる」として、類似性を否定したのです。
他者の商標を意識しながら、決して消費者の誤認を狙ったものではない、いわゆるパロディ商品という分野があります。
フランク三浦もそうした商品の一つ。
制作者も販売会社もスイスの高級時計ブランドを意識していることを否定せず、むしろ「パロディ商品である」と公言しています。
呼称が似ているだけではなく、文字盤のデザインなども本物のモデルに似せて作るなどしているものの、あくまでも洒落、ジョークであることは周知でした。
世界最高峰の品質の高さ、値段も100万円以上する本家に対して、三浦は4000円~6000円、「完全非防水」をうたい、2㎝以上の高さからの落下の衝撃に耐えられないなど、品質の低さをネタにしてしまうほど。
裁判では模倣とパロディの区別はしていませんが、両者の商標は明らかに異なり、混同は考えられないとして、商標の登録を有効と認めたのです。
法の精神はただ乗りの防止
今回の判決のポイントになったのは、商標として似ているか否か、消費者に混同を与えないか否か、ということでした。
商標法の精神は、本来の商標の権利者が長年の努力と投資で築いた権威や信頼に、第三者がただ乗り(フリーライドと言います)できる状態を防ぐことです。
三浦の場合、模倣を目的としているはなく、オリジナルとの違いを明確にし、笑いをテーマとするジョーク商品の位置づけを目指したものです。
むしろそうした、徹底的なパロディ路線を追求する潔さ、ジョークゆえのバカバカしさがかえって人気になりました。
購入のされ方も、消費者の志向も高級時計のそれとは相いれず、本家ミュラーと混同して購入している消費者はおそらく存在しないはずです。
従来の時計ユーザーとは違う新たな需要層を開拓したと言ってよく、したがって、商標権のただ乗りには当たらないという司法の判断が働いたのです。
パロディだからすべて許されるわけではない
今回の裁判では、フランク三浦は模倣に当たらず、オリジナルの商標として登録を認める判断が下されました。
しかし、パロディなら何でも許されるというわけではありません。
過去には、お笑いで有名な吉本興業のグループ会社が販売した「面白い恋人」が、北海道土産として知られる「白い恋人」の商標を侵害しているとして、登録が認められなかった例があります。
このケースでは、白い恋人の商標を登録している石屋製菓が販売差し止めなどを求める裁判を起こし、結果、パッケージデザインの変更や販売地域を関西地域に限定する条件で和解が成立しています。
白い恋人と面白い恋人を混同している消費者はそれほど多くないでしょう。
しかし、混同するかどうかではなく、「白い恋人の知名度にただ乗りしている」という点を石屋製菓側は問題にしたのです。
今回の件でも同様、パロディ商品にも創意工夫によるオリジナル性が認められるとはいえ、あくまで本家の知名度、ブランド力ありきのことです。
パロディが洒落、ジョークの範囲で済んでいるうちはいいとしても、オリジナルの商圏を脅かしたり、ブランドイメージへの影響が懸念されたり、商売の邪魔をするとこの限りではないということです。
実際、フランク三浦のケースでは、商標については類似ではないと判断され、登録を認められたものの、文字盤のデザインなどを似せている点などを問題にする声もあります。
一概に商標権の侵害に当たらなかったとしても、意匠権の侵害や、不正競争防止法、名誉棄損など、別の権利侵害を問われる可能性も考えられるでしょう。