世の中でありふれたフレーズ、普通すぎる名称は商標登録できないというルールは、国や言語は違えど変わらない当然の前提のはず。
ところが、アメリカで顧客に対する感謝の言葉、「ありがとう」というフレーズを宣伝に使ったら商標違反だとして訴えられる事案が発生しました。
商標の取り扱いについて世界的な潮流をリードしてきたアメリカで巻き起こった珍事に注目が集まっています。
あいさつの言葉が商標登録できたのも不思議だが
訴えたのは金融大手のシティグループ、訴えられたのはこれも世界的な通信会社であるAT&T(エーティアンドティー)です。
シティグループによれば、AT&Tが新しいクレジットカードのキャンペーンで用いている「thanks(サンクス)」および「AT&T THANKS(サンクス)」という表記がシティグループの持っている登録商標を侵害しているのこと。
調べてみるとシティグループでは、thank you(サンキュー)や、City thank you(シティサンキュー)などの商標を商標登録しているのは間違いありません。
thanksとthank you、確かに似た言葉ですが、言うまでもなく、いずれも日本語で「ありがとう」、「ありがとうございます」に相当する感謝の言葉であり、あまりと言えばあまりに普通のフレーズです。
日本でもそうですが、公告やチラシに、「いつもご愛顧ありがとうございます」とか、「大感謝キャンペーン」などと表記するのは一般的なことであり、このフレーズが商標の侵害になると言うなら、あまりに横暴と言えるでしょう。
そもそも日常的なあいさつの言葉という極めて一般的な名称が商標として登録できたこと自体が不可思議と言えなくもありません。
シティが商標登録しているサンキューの商標を見ると、凝ったデザインのロゴタイプなど商標登録されていてもおかしくないものもありますが、中にはよくみる普通の活字で登録されたものも見受けられます。
訴えられた側も新たに商標登録して応戦
事態を複雑にしているのが、AT&Tが行っていた新しいクレジットカードのキャンペーンというのがシティと提携して作ったカードだったことです。
シティ側の主張では、似たようなクレジットカードのキャンペーンで同じようなフレーズが使われていると消費者の誤解を招く恐れが大きいという理屈のようです。
感謝の言葉という普通すぎる名称が商標登録された謎はひとまず置いておくとしても、サンキューとサンクスは厳密に言えば違う商標のような気もします。
まして、AT&T THANKSとCity thank youなどそれぞれ会社名が入っていれば消費者が混同することもないと思うのですが。
米国内でもさすがにこれはシティの横暴ではないかという議論が起きています。
それでもシティ側は矛を収める気はない様子。
対するAT&Tも黙っていません。AT&T THANKSを新たに商標登録する動きを見せており、事態は早くも泥沼化の様相を呈しているようです。