「中国でビジネスを始めるから商標登録したい」
こうした希望を持つ経営者の方や個人事業主の方は実はたくさんいらっしゃいます。
しかし、外国の商標登録は日本国内よりも分かりにくく、情報もあまり出回っていないのが現状です。
日本の商標登録制度と中国の商標登録制度は違うにも関わらず、同じものと考えてミスをしたり、費用が大きくかさんでしまう方もいるようです。
突然ですがはじめまして、アイリンク国際特許商標事務所の井上と申します。
私の事務所は中国の外国専門スタッフとの長年の繋がりもあり、中国の商標登録で30年ほどのキャリアがあります。
弁理士の腕の見せ所である外国の商標登録に必要なこと、注意すべきこと、30年以上のキャリアで得てきた商標登録の具体的な方法を全てこの記事に注ぎ込んでいきます。
ぜひ期待して読んでいただけると嬉しいです。
日本と中国では商標登録のルールが違う
あなたは日本で商標登録を行ったことはありますか?
日本で商標登録を行うと登録した商標は日本国内のみ守られます。
もちろん、日本のルールの中で守られるのです。
しかし、中国でも同じ商標を使われたくないと考える場合には、中国で中国のルールにしたがって商標登録しなければいけません。
国名 | 日本と中国の商標登録の違う点 |
日本 |
|
中国 |
|
また上記の表の通り、商標登録の基本はそこまで差はありませんが、それでも日本と中国の商標登録には多くの違いがあり、日本での商標登録のやり方をそのまま中国で行うことはできません。
中国で商標登録出願する方法は2つある
中国で商標登録出願を行うには、以下の2つの方法があります。
- 直接商標登録出願
中国の特許庁に直接出願する - 国際商標登録出願(通称マドプロと呼ばれる)
日本国特許庁に提出する一つの願書で複数国に一括して手続を行うことができる出願方法
直接商標出願については、法律的に現地代理人を立てる必要があり、中国の弁理士を探す必要があります。
中国の弁理士は、日本ほど弁理士資格を取得するのが難しくないために、きちんとした弁理士を選ばないと商標登録に失敗してしまいます。
国際商標出願は、 現地代理人として中国の弁理士を立てる必要はありません。
また、出願する国の数が多い場合には商標登録費用の割引も行ってくれるため、3カ国以上に商標登録出願を行う際によく使われる出願方法となっています。
中国の商標登録制度とは?
中国の商標登録は「先願主義」
まずは、日本と中国の違いを見ていきましょう。
- 日本(先使用主義)
先使用主義というのは、先に使い始めた人に商標権があるという考え方 - 中国(先願主義)
先願主義というのは、先に商標登録した人に商標権があるという考え方
日本の先使用主義という考え方は少し難しいかもしれませんので例題を出してみます。
例えば、Aさんが先に使っていたとユーザーに認知されている商標に関しては、Bさんが商標登録をしてしまっても、Aさんはその商標を使い続けることができるという考え方です。
先願主義に関しては、ほとんどの場合において先に商標登録をした人だけがその商標を使うことができるという考え方なわけです。
そのため、中国で商標登録を検討している際にはなるべく早く商標登録を行うことがビジネスを円滑にするためには必須なのです。
中国での商標の種類
中国で商標登録をする際に、指定商品(小売・卸)または指定役務(サービス)の記載をする必要があります。
区分も日本と同じように45分類に分かれており、第1類から第34類までが商品区分、第35類から第45類までがサービス(役務)区分となっています。
中国での商標の種類については大きく5つあり、以下の表にまとめている通りです。
商標の種類 | 詳細説明 |
商品商標 | 商品につけられる商標(商品名)のこと |
役務商標(サービスマーク) | 例えば、飲食店における飲食物の提供などのサービス等につけられる商標(サービス名)のこと |
立体商標 | 立体的な形状からなる商標のこと |
団体商標 | 主に団体や協会などの組織名で登録される。その組織の構成員が商業活動をする際に、組織の構成員であることを証明する商標のこと |
証明商標 | 特定の商品又はサービスにつき、監督能力を有する組織が管理し、その組織の構成員以外の者がその特定の商品又はサービスについて使用することで、それらの原産地や原材料、製造方法、品質の保証が証明されるものです。ちなみに日本には、証明商標法はありません。 |
中国の商標登録の流れ
まずは全体像を把握しないと分かりにくいと思うので、要点だけをSTEP式で紹介していきます。
- STEP1:事前調査
ネットで事前調査を行います。中国商標局のシステムで商標検索できますが、すでに登録済みの商標しか検索できないため、60%~70%程度の正確性でしか調べることができません。有料の事前調査も使えるのですが、有料調査でも80%程度の正確性です。 - STEP2:商標登録出願
調査後は出願書類をまとめて提出し、商標出願を行います。出願時の料金は、1商標1区分で4,800元(現地代理人手数料)+1,000元(印紙代)となっています。(1元:約15円で計算すると費用感が分かります) - STEP3:受理通知
中国商標局に商標登録出願後、1~3ヶ月で受理通知があります。(※この時点で商標登録が完了したわけではありません) - STEP4:審査・補正
出願書類に不備や情報不足な点が見つかった場合、中国商標局から出願後6ヶ月程度で通知があります。 - STEP5:登録もしくは拒絶
商標登録が可能なものだと判断されると中国商標局から公告の案内が届き、3か月間の異議申立期間を経て登録可能になります。中国では登録料の納付はなく、代わりに現地代理人の登録書の送付と登録書の翻訳手数料等で約6,900円ほど料金がかかります。
また、出願する際の注意点としては 、日本のように「1商標多区分1出願」はできない点です。中国は「1商標1区分1出願」と決められていることを頭に入れておきましょう。
中国で商標登録に必要な準備書類
中国で商標登録に必要な書類は大きく3つあります。
- 商標登録の願書
◯出願人名義(中国語・英語)、住所(中国語・英語)
◯商標見本およびその説明(中国語)
◯指定商品・役務(中国語)
◯その他必須な内容(中国語) - 身元証明書類
◯日本法人の場合、会社登記簿謄本(3か月以内のものでなくても良い)の写し
◯日本人(個人)の場合、パスポートトップページの写しまたは運転免許証の写し - 委任状
現地代理人に商標登録を委任する形になるので、委任したことを証明するための委任状
上記の3つを押さえて書類をまとめることができれば、準備書類はOKです。
中国の商標登録を行う際に注意すべきポイント
中国の商標登録には基本的に現地の弁理士が必要
マドプロを活用しなければ、基本的には現地の弁理士を代理人として立てなければいけません。
しかし注意したいのは、日本の士業(特に弁護士と弁理士)の平均的な実務レベル、ユーザーフレンドリー度合い、明朗会計度合いが非常に高いので、外国の士業が同じレベルであると想像していると痛い目を見るという点です。
また、何も情報がないところから現地代理人を探すのはかなり難しく、基本的には日本の弁理士事務所がお付き合いのある現地代理人に依頼するのが普通です。
しかし、この場合にも中国の商標登録を行った経験が浅い場合には、中国の代理人との信頼関係は薄い場合が多いです。
そのため、日本の弁理士を通して現地代理人に依頼した場合でも確実に申請を行ってもらえるか不安が残ります。
手前味噌で恐縮ですが、私、井上は中国の商標登録に関して様々な経験を積ませていただいており、得意分野と自信を持って言えるようになりました。
もし、少しでも不安を抱えている方がいらっしゃいましたら、井上に中国での商標登録を相談してみてはいかがでしょうか?
商標登録にかかる期間は1年~2年
中国の商標登録完了までにかかる期間は1年~2年と言われています。
なぜこのような長い期間が必要なのかというと、日本よりも中国の方が約60倍ほど商標登録件数が多いという現状が影響しています。
- 日本の商標登録件数(2018年度):11.6万件(参考:honpen0101.pdf)
- 中国の商標登録件数(2019年度):640.6万件(参考:http://www.cnipa.gov.cn)
また、年々外国出願件数も増えているため、今後さらに商標登録の期間が伸びる可能性もあります。
ひらがなやカタカナの商標登録する際の注意
中国の商標審査基準では、漢字・ひらがな・カタカナ・アルファベット表記・ピンイン(中国普通語の発音表記)は、それぞれ類似しないとされています。
例として、大根とダイコンは全くの別ものとして扱われるということです。
そのため、特に守りたい商標の場合には漢字、ひらがな、カタカナ、アルファベット表記、ピンインの全てで商標登録することをおすすめします。
日本よりも中国では商標登録を有効に活用すべき
日本では、商標権を侵害するケースはあるにせよ少なく、裁判に発展するケースはもっと少ないです。
日本はそもそも他の国と比較しても商標権を故意に侵害する方は少なく、日本が採用している先使用主義の考え方が功を奏しているという見方ができます。
日本では、仮に商標登録で一番乗りできたとしても誰かが先に使っていて、一定数に認知されていればその商標を独占できないからです。
しかし中国では、商標権の侵害は割と日常茶飯事であり、その大きな要因の一つとして先願主義の考え方があり、商標登録をいち早く行った方が独占できるというわけです。
こうした制度上の穴をついて、メイドインジャパンの商品を中国でいち早く商標登録を行う方が後を絶ちません。
実際にグローバル展開を考えている企業であれば、前もって商標登録しておくぐらい回り込んでおかないと「実はもうすでに登録されていた」なんてことも珍しくないのです。
しかし回り込んでおくと言っても、どう考え、どう対処していくべきかは経験とノウハウを持った弁理士でないとなかなか難しいかもしれません。
その点、私は得意分野でもありますので、気軽にご相談いただければ1回の相談だけで解決することも珍しくありません。
ぜひ一度、ヒアリングという形でお話を聞かせていただけると嬉しいなと思っています。