商標の登録を特許庁に申請してから実際に登録が完了するまでの期間は徐々にスピードアップしていますが、それでも平均して7、8ヶ月かかるのが現状です。
めまぐるしいスピードで変わる現在のビジネスシーンではいかにも時間がかかり過ぎるということもあるでしょう。
そんなとき、審査のスピードを上げるためのとっておきの方法があります。
最短1カ月で商標登録を実現
商標登録のスピードを上げるためのとっておきの方法とは、早期審査制度を活用することです。
早期審査とはなんでしょうか。
商標の出願から登録まで7、8カ月かかるとはいっても、特許庁の職員がのんびり長い時間をかけて審査しているというわけではありません。
制度の改革や審査官のスキルアップなどを通して審査のスピードアップは熱心に行われています。
問題は、商標登録の申請件数がそれ以上のスピードで増えていることです。
いまや年間で商標登録の出願件数は10万件を超えています。
審査官の人数は限られますので、どんなにスピードアップしてもどうしても時間がかかってしまうのです。
要するに商標登録までにかかる7、8カ月のほとんどは実は順番待ちの状態です。
順番を繰り上げてもらうことによって、スピーディな商標登録を可能とするのが早期審査制度です。
早期審査が適用されるのは、商標を出願してから登録査定、もしくは拒絶査定が確定するまでの期間です。
通常であれば6ヶ月から7ヶ月かかる審査期間が、早期審査を利用することによって、最短1ヶ月、長くても3カ月にまで短縮できるのです。
登録手続きに1カ月ほどかかりますが、トータルで最短2カ月ということになり、何もしなかったときの7、8ヶ月と比べてかなりのスピードアップが期待できます。
早期審査の対象となるには
早期審査を使えば、半年かかる審査を最短1カ月に短縮できると聞けば、誰でも早期審査を選択したくなるはずです。
とはいえ、誰もがみな早期審査に殺到したら結局は審査が混んでしまって順番待ちができてしまいます。
当然ながら、誰でも利用できるわけではなく一定の条件があります。
まず、現在のところ新しいタイプの商標である動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、音商標、位置商標については、早期審査の対象外となっています。
新しいタイプの商標は導入されてからまだ日が浅いため審査ノウハウを培っている段階であり、スピードよりも正確性を重視するためです。
したがって、対象となるのは、文字のみの商標、ロゴやイラスト、図形などの平面商標、包装や容器、外形などの立体商標ということになります。
その上で、次の(1)か(2)いずれかに当てはまることが条件です。
(1)出願人又はライセンシーが、出願商標を指定商品・指定役務に使用している又は使用の準備を相当程度進めていて、かつ、権利化について緊急性を要する出願
少しわかりにくい言い方ですが、要するに、これから商標登録しようとしている商品やサービスにかかわるビジネスをすでに始めてしまっているか、もうすでに開始寸前までいっている段階で、お金や人をたくさんかけている状態ということです。
この際、出願する人(商標権者)だけでなく、商標権者からライセンスを受けてビジネスを展開する人の事情にも目を向けているのがこの制度の特徴です。
なお、緊急性を要する出願とは、次のいずれかに該当するものをいいます。
- 第三者が出願人の許諾なく、これから出願しようとしている商標と同じか酷似している商標を、同じ商品やサービスとして使用している、もしくは、使用しようとして準備を進めている
- これから出願しようとしている商標の使用について、第三者からなんらかの警告を受けている
- これから出願しようとしている商標について、第三者から使用許諾を求められている
- これから出願しようとしている商標について、海外にも同時に出願しようとしている
(2)出願人またはライセンシーが、出願商標を既に使用している商品・役務または使用の準備を相当程度進めている商品・役務のみを指定している出願
これもちょっと分かりにくい言い方ですが、2つに分類してみるとわかりやすくなります。
- これから出願しようとしている商標をすでに使用しているか、開始寸前までいっている
- すでに使用している商品・役務(サービス)のみを指定区分としている出願
1は説明の必要ないでしょう。
問題は2です。
商標登録するには、使用しようしている商標ととともに、商標を使う商品やサービスの範囲を特定する必要があります。
これを指定区分と言います。
詳しくは商標を登録するには分類を決めるで解説しています。
ここでは簡単に言うと、ある植物性の素材を使って開発した健康食品をすでに販売しているとします。
食品の場合、指定区分は通常、第29類(動物性の食品及び加工した野菜その他の食用園芸作物)か、第30類(加工した植物性の食品)です。
すでに健康食品として商品化し販売しているので1の条件はクリアしています。
次に2ですが、指定区分を第29類と第30類に限れば早期審査の対象になります。
しかし、実は同じ素材を使って化粧品を商品化しようとしているとします。まだ開発はしていないが計画はあるので、いまのうちに化粧品としても商標を抑えておきたいと考えるのは当然です。
この場合、化粧品は分類が異なり第3類(洗浄剤及び化粧品)になります。
化粧品は現時点では商品にもなっていないし、計画も先の話なので、第3類を指定区分に加えてしまう2の条件がクリアできないことになるわけです。
早期審査を申請するための手続
早期審査を利用するには、早期審査に関する事情説明書を特許庁に提出します。
この際、早期審査を適用する重要な用件として、すでに商標を使用してしたビジネスを行っているか、行う寸前まで行っているという点を証明することが必要です。
カギになるのは、もうすでにビジネスのだんどりがそうとう進んでいて、お金も人もたくさん使ってしまっている状態であることを審査官が客観的に判断するための資料です。
例えば、商品の写真、パンフレットやカタログ、メディアに掲載された広告などです。
要するに、切羽詰まっているということを審査官に納得してもらうための説得力のある材料を用意しなければならないわけです。
なお、事情説明書は商標登録願と同時でもいいし、後日改めて提出することもできます。
出願手数料以外に追加の費用なども不要です。
申請は、出願人本人でも可能ですが、代理人に依頼することもできます。
この際、事情説明書の提出のみを代理人に依頼することも可能です。
つまり、頑張って商標登録願の提出までは自分でやったけれども、事情説明書をどう書けばいいのかわからなくて困ったというときに、途中段階から専門家である弁理士の手を借りることができるわけです。
早期審査は必ずしも認められるとは限りませんが、一度却下されても、再度の申し出が可能で回数に制限もありません。
追加料金もかかりませんので、どうしても急ぐ必要があれば、何度でもチャレンジしましょう。