商標登録を勝ち取るための道のりは、商標出願後の手続の過程ではなくその前段階の事前準備からすでに始まっています。
むしろ、事前準備の段階で商標登録できるかどうかほぼ決まってしまうと言っても過言ではありません。
それほど大事な事前準備とはいったい何をすればいいのでしょう。
また何に気を付ければいいのでしょうか。
事前準備が悪いとすべてが無駄骨に
商標を登録するには特許庁の審査をパスする必要があります。
このため、どうやって査定を通すかというところに力点が置かれてしまいがちです。
実際には特許庁における審査は厳格なルールのもとに行われているので、基準に適合していれば通すし、逸脱していれば通さないというだけのものです。
もちろん厳格なルールとはいえ人間がやることなのでそこにはあいまいな部分も残されており、そこをどううまく持っていくかというところが弁理士の腕の見せ所でもありますが。
いずれにしても、事前準備いかんでは登録できるものもできなくなるし、審査にかかる期間も変わります。
あるいは、査定不服審判などの裁判に持ち込む必要が生じることもあります。
苦労しても結局、登録できなければかけた時間も費用も失った上で、商標を守る権利も得られないことになりかねません。
事前準備はそれほど重要なのです。
具体的に事前準備とは何をするのかというと、以下の3つです。
それぞれ見ていきましょう。
1.商標調査
商標調査とは、これから申請しようと考えている商標が特許庁の審査をパスして商標登録できる商標なのかどうかの判断材料を集めることです。
基本的なことで言うと、商標として登録できないケースには以下の3つがあります。
- 独自性に乏しく、他者と識別不可能
- 公序良俗に反する
- 他者の商標と紛らわしい
3つのケースについて詳しい解説は末尾の関連記事を参照してください。
もっとも大事なものを一つだけ上げるとするなら(3)の他者の商標と紛らわしい、です。
商標として登録できないケースの7~8割がこれに該当します。
現在の商標法では、
まったく同じ商標だけではなく似ている商標についても商標権が発生します。
これから申請しようとしている商標と似ている商標がないか、幅広い視点で調査する必要があります。
調査の結果、同じ商標、もしくは似ている商標がないに越したことはありませんが、仮に似ている商標がすでに登録されてしまっていたら、どうすれいいのでしょうか。
一概に諦める必要はありません。しかし、正面からいけば当然、認められるはずもないので、どう対応するか戦略を練らなければならないのです。
詳しくは「[POST_LINK id=77]」で解説していますので参照してください。
2.区分の検討
区分とは、商標権の及ぶ商品やサービスカテゴリーの範囲のことです。
商標登録する際に商標法で定められた45分類から自分で選んで指定します。
商標登録は商標そのものの形状や読みなどを特定することと、区分を指定することの2つで成り立っており、指定区分のカテゴリーでのみ商標権が守られます。
つまり、1.商標調査でまったく同じ商標が先に出願、登録されていても指定区分が違えば問題なく登録できるのです。
逆に言えば、指定区分の範囲が甘いと商標を十分に守ることができず、合法的に商標を使われる可能性さえあるということです。
区分は複数指定でき上限はありませんので、商標の保護に万全を喫するなら45分類すべてのカテゴリーで登録すればよさそうですが、そう単純なものではありません。
第一に、コストがかかり過ぎます。商標登録の手数料は指定区分を追加するごとに加算されますのですべての分類で登録したら手数料だけでかなりの金額になります。
第二に、無理にたくさんの区分を指定しても、商標を実際に使用している形跡がないなど商標としての実体に問題ありとみなされ登録を取り消されることもあります。
指定区分をどうするかということは、実に重要な問題なのです。
3.ビジネスにどう生かすか
商標をビジネスにどう生かすかということは、商標登録の実務と直接関係することではないかもしれませんが、もっとも大事なポイントではないかと考えられます。
商標登録とはそもそも自分のビジネスを有利に展開するために行うものだからです。
商標登録をどうするかの前に、お客様になじんでもらえる名前なのかとか、ブランディング戦略としてどうなのかを考えるべきです。
まして特許庁の審査を通りやすい商標にするといった考えに寄ってしまえば本末転倒と言えるでしょう。まずビジネスありき、のはずです。
伝説的なパンクロックバンドとして世界的に知られるキッスは、音楽史上で多くの足跡を残したアーティストであると同時にビジネスでももっとも成功を収めたグループであると言われています。
一般的に音楽で名を成す人は、曲作りやコンサートの演出などでは天才的な才能を発揮するもののビジネスのセンスは素人以前というケースが多いようですが、キッスのメンバーがすぐれていたのは当初から自分たちの仕事を音楽ビジネスと捉えていたことです。
ただ単にバンドとして売れればいいのではなく、自分たちの作った世界観をどうビジネスに生かすかを考え、自作の曲のフレーズ、バンド名、ロゴデザイン、あるいは、グループの代名詞ともなっているフェイスペイントの図柄などを商標登録し、それらを使ったライセンスビジネスを展開しました。
レコードの売上だけなく、商標などを利用したビジネスによりキッスが築いた資産は推定でおおよそ10億ドル、日本円で1000億円以上に達すると言われているほどです。
レコードが売れなくなり音楽業界が疲弊している現在でもグループのビジネスは好調そのものということです。
商標というとどうしても守りのイメージがありますが、実際にはビジネスに直結するものであり、したがって、どうやって商標を登録するかの前に、どのようにビジネスに生かすかという視点が大事になると思います。