特別な商標登録、防護標章

商標登録することによって得られる商標権は、出願時に指定した同一の区分に属する商品か、もしくは類似する範囲に限られます。

しかし、通常の範囲を超えて、もっと広範に商標を保護してくれる特別な登録の方法があります。

防護標章登録制度と言います。

防護標章とは何なのか、どのようにすれば商標登録できるのでしょうか

目次

知名度の高い商標を守る制度

防護標章とは、出願時に登録した指定商品・役務の区分、及び、その類似範囲を超えて、第三者が商標を勝手に使用することを防止する制度です。

商標登録しても実際に商標を使用していない場合、取消審判の対象となることがありますが、防護標章登録していれば対象からも除外されます。

下の2つの表は、一般の商標登録と、防護商標登録の効果の及ぶ範囲の違いです。

一般の商標登録
指定商品・役務
同一 類似 非類似
商標 同一 専用権 禁止権 効力なし
類似 禁止権 禁止権 効力なし
非類似 効力なし 効力なし 効力なし
防護標章登録
指定商品・役務
同一 類似 非類似
商標 同一 使用権 禁止権 防護標章登録に基づく禁止権
類似 禁止権 禁止権 効力なし
非類似 効力なし 効力なし 効力なし

一見して分かるように、一般の商標登録では、同一の商標であっても、指定商品・役務の類似範囲にのみ禁止権が発生します。

ちなみに、禁止権とは、第三者に自分が登録した商標を使われた場合、使用の禁止を求めることができる権利です。

当然ながら、特別な権利が認められるからには、それなりの条件があります。

防護標章として登録できるのは、世の中に広く知られている商標であること、かつ、第三者がその商標を勝手に使用とした場合、商標の使用権者が販売している商品・サービスであるとの誤認を招く恐れのある場合に限られます。

もう少し具体的に考えてみましょう。

ある有名な食品メーカーがあります。

会社では自社で生産している加工食品の商標登録をすべてすませてあります。

ただし、指定区分は食品そのものに該当する第29類と30類のみです。

他の区分で商標を使用していないし、今後も使用する予定はありませんでした。

ところが、第三者が勝手に商標を使ってレストランを開業してしまったとします。

飲食物の提供は第43類なので指定区分外であり、類似範囲にも該当しません。

ただし、非常に有名な商標なので、消費者は当該の食品メーカーが開業したレストランだと勘違いしてしまう可能性が高いと考えられます。

商標法は、商標権者が長年にわたって築いたブランドの権威や信用のただ乗りをさせないための法律です。

したがって、商標登録の出願時に指定した区分ではなく、その会社の行っている事業範囲の外にあったとしても、消費者の混同を誘うようなやり方を許さないために、防護標章登録制度が必要なのです

なお、間違えやすいのですが、この制度は防護商標ではなく、防護“標章”です。

標章とは、識別性のあるしるし、文字、ロゴ、マーク、エンブレムなど他者と区別するために使用するものを言います。

知名度はどのように判定するか

防護標章登録制度では、特別に著名性のある商標のみが登録を認められます。

まず、相当な知名度があることが条件です

知名度の判断基準は、以下の通りです。

  1. 登録商標の使用開始時期、使用期間、使用地域、使用商品・役務の範囲
  2. 登録商標を周知するための広告宣伝活動の程度と普及度
  3. 登録商標権者の企業規模、営業状況、取扱い品目と商品・役務との関連
  4. 商標登録を行おうとする者の知名度

知名度だけでは不十分です。

登録した商標を使われたとして、それがもともとの商標権者の商標であると、消費者に誤解を与えるかどうかが問われます。

この場合の判断基準は以下の通りです。

  1. 本来の商標権者の生産する商品、販売方法、取扱いルート、材料、用途などから見て、同一企業の商標であると一般的に認識されること
  2. 本来の登録商標権者と密接な関連があるものと一般的に認識されること

原商標とは別に登録と更新を行う

防護標章登録制度の適用を受けるのは、すでに、商標登録されている商標です。

したがって、まず、通常の商標登録が済んでいなければなりません。

その上で、改めて防護標章登録制度による登録の手続きが必要になります。

通常の商標登録と同様、特許庁によって防護標章として認めるかどうかの審査をパスして、初めて防護標章としての特別な権利が発生します。

存続期間は商標権と同様、10年です。

更新手続きについても、原商標登録とは別に改めて防護標章登録の更新を行います。

防護標章登録出願と更新登録について、より厳格な審査を要するめ、手数料は通常の商標登録の2倍に設定されています。

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