小売店だけに認められている商標登録の制度がある

小売等役務商標制度は小売業や卸売業に対して特別に認められた商標登録の新基準です。

なぜ小売や卸などの流通業だけの特別な商標登録の規定が設けられたのでしょうか。

実はこの制度がスタートする前まで、小売店における商標登録は実務上難しく、十分に商標が保護されていない状況だったのです。

小売を対象にした特別な商標登録の制度が誕生した背景と制度のあらましについて、以下の通り説明します。

  1. 制度導入前の経緯
  2. 小売等役務商標制度のメリット
  3. 商標登録できる商標の範囲
  4. 小売等役務商標制度の対象業種
  5. 他者が先に商標登録してしまった場合
目次

制度導入前の経緯

商標法における商法登録の制度は、時代の流れや産業構造の転換、権利意識の変化などによって度々改定が加えられており、小売等役務商標制度もその一つ。

2007年に新しく導入された比較的に最近の規定です。

なぜ小売業だけに特化した商標登録の制度が必要だったでしょうか。

2007年以前の商標法では小売業による商標登録は事実上、非常に難しかったからです。

理由は二つ。

1つめの理由は、小売自身が商品を作っているわけではなく、メーカーの作った商品を仕入れて再販売する立場であり、その本質はサービス業であるという前提があります。

消費者にとって便利な売場づくりを志向し、品ぞろえや棚割りの工夫、商品選定をしやすくする仕組みなどのサービスの提供がそのビジネスの本質にあるというわけです。

現在は形のないサービス(役務)でも商標登録が可能になっていますが、小売が行うサービスはあくまで商品販売に付随するものであって、それ事態に対価があるわけではなく、したがって市場で他者商標と競合する要素がないとされ、商標登録が認められなかったのです。

2つ目の理由は、商品の種類が多いためです。

小売業が行うサービス商標について商標登録することはできませんでしたが、従来から商品商標については登録することができました。

小売自身が製造しているプライベートブランドは商標登録が可能であり、また、値札やチラシなどに印刷する商標についても法改正以前から商標法で保護されていました。

したがって、小売のビジネスの本質がサービスだとしても、商品の販売を含む商標として登録することは理屈上、可能です。

とはいえ、スーパーや百貨店などは扱っている商品は多岐にわたります。

特定の商品に付随するものではなく、お店の看板やカート、従業員のネームプレートなど店内で扱っているすべての商品にかかわる商標の場合、対応する区分すべてで登録を申請しなければならず、多額の費用がかかってしまうために事実上困難だったのです。

一方、小売りが行うサービスは長年の努力により市場での認知を獲得しており、保護されるべき商標として諸外国では登録が進んでいました

こうした経緯を受けて、日本でも小売サービスの商標を保護対象として認知する機運が高まっていたわけです。

小売等役務商標制度のメリット

小売等役務商標制度の成立により、改正以前は小売りや卸が行っているサービスに付随する商標を登録できなかったのが、小売サービスとして登録できるようになりました。

仮に、商品商標として登録を目指す場合、取り扱う商品すべての区分で登録しなければならないため、手続費用が非常に高額になってしまうというデメリットがありましたが、小売等役務商標として登録する場合は小売サービスとして一つの区分で商標の出願ができます

これにより、店舗の看板、従業員の制服、ショッピングカートなどに使用する商標を含め、サービスマーク(役務商標)として商標法で保護されるようになりました。

商標登録できる商標の範囲

2007年の改正により、以下の用途で使う商標が登録できます。

  • 商品の値札
  • 折込みチラシ
  • 価格表
  • レシート
  • ショッピングカート
  • 買い物かご
  • 陳列棚
  • レジ
  • 店舗の看板
  • 店舗内の売場案内
  • 店舗内の売場名称
  • 従業員の制服や名札
  • レジ袋
  • 包装紙
  • テレビ広告・インターネット広告

小売等役務商標制度の対象業種

小売等役務商標制度は、衣料品店、酒店、本店、家電量販店などの個別業種、あるいは、多品種を販売するスーパーマーケット、コンビニエンスストア、ホームセンター、百貨店など総合小売、さらに、ベンダーや卸売業、問屋業などの中間流通も対象です。

また、実店舗のない、カタログ販売、テレビショッピング、インターネットを利用した通信販売も対象です。

他者が先に商標登録してしまった場合

自分が使っている商標を第三者が先に商標登録した場合でも、2007年4月1日の改正前から使っていた商標なら従来の業務範囲で使い続けることができます

ただし、商標権者から、消費者が混同しないような処置を講じてほしいという申し出があることが考えられます。

この場合は、従来の商標を踏襲しながら、地域名で区別するなど次善の対処法を当事者間での話し合うことになります。

また、商標の読みは同じであっても、デザインで他者の商標と明確に区別できれば、独自の商標として商標登録が可能です。

まったく同じ商標を他社が先に登録してしまった場合、登録公報の発行後2月以内なら登録取消しのための異議申立ができます。

2カ月を過ぎてしまった場合でも、登録後5年以内まで、登録の無効を訴える無効審判を請求できます。

これ以外にも、使用実態のない商標登録や、他者の商標登録を妨害する目的で行われるなどの不適切な登録であると判断されれば、期日の制限なく商標登録の取り消しを訴えることができます。

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