商標として登録できる標章としては、文字や記号が一般的でした。
実際に以前は、文字や記号のみを商標として登録していた歴史があります。
近年になって、従来の標章の範疇に収まらない新しい概念の商標がでてきました。
文字や記号などの古い概念の商標に対して新しい商標と呼ばれます。
新しい商標の登場により、メロディ、色彩、あるいは動きなども独自の商標として登録できるようになったのです。
新しい商標は5種類
商標法の歴史は明治17年の条例制定までさかのぼり、これまで何度も大きな改定が行われてきました。
商標に対する考え方や制度、基準などは必ずしも確定したものではなく、時代や社会状況によって意外にダイナミックに変化しているものなのです。
近年になって行われた改定として特に大きなものが、特許法等の一部を改正する法律(平成26年5月14日法律第36号)による商標法の改正です。
このとき、新しい商標の概念として、従来の枠に収まらない5つの新しい標章が商標として登録できるようになりました。
新しい商標とは次の5種類です。
それぞれ見ていきましょう。
最後に、施行前から使っている新しい商標の扱いについて解説していますので参考にしてください。
動き商標
動き商標とは、文字や図形などが時間の経過にともなって変化する商標を言います。
最近になって多いのは、テレビCMなどでキャラクターやロゴがアニメ・CGなどによって表現されている一定の動作についてです。
単に図形や文字だけではなく、それらの動きが一定の社会的認知を得て、ある特定の商品やブランド、会社を識別する標章として認識されるなら、商標として登録すべきということになったわけです。
実際に登録された動き商標の例には次のようなものがあります。
*出願・係争中含む
- エステーのCMなどで使われるひよこのキャラクターが歩き回る動き。
- ワコールのCMなどで使われる2本のリボンがつぼみの形から広がってWマークのロゴに変化するまでの動き。
- 東宝が映画の始まりに使用している黒い画面にうっすらとしたロゴが現れ背景の光とともに明るさを増していく動き。
- かに道楽の店頭にあるカニのオブジェの足の動き。
ホログラム商標
ホログラム商標とは、文字や図形などがホログラフィーその他の方法により変化する商標のことです。
ホログラフィーとは見える角度によって映し出される画像などが変化する技術のことで、私たちに身近なものとしてはクレジットカードの表面加工、お札の金額表示や肖像画の印刷に使われています。
実際に商標登録されたホログラム商標には次のようなものがあります。
*出願・係争中含む
- 各種クレジットカードやギフト券の偽造防止用の印刷やカード表面加工。
- ほけんの窓口のステッカー、見る角度によって、お客さまにとって「最優の会社」→ほけんの窓口→安心の輪という3種類の文字列が現れる。
色彩のみからなる商標
色彩のみからなる商標とは、単色・複数の色彩の組合せのみからなる商標のことです。
従来は、図形や記号を構成する要素の一つとして特定の色彩を含んだ商標が登録されることはありました。
色彩のみからなる商標は、これと違い、外形や輪郭を持たない純粋に色彩の組み合わせのみを商標登録の対象としたものです。
特定の形状を持たない商品の包装紙や企業のコーポレートカラーなども商標登録が可能となります。
実際に商標登録された色彩のみからなる商標には次のようなものがあります。
*出願・係争中含む
- 日立工機の重機の塗装に使われるタキシーイエロー。
- セブンイレブンの店舗の外装に使われるオレンジ、緑、赤、3色の組み合わせ。
- 京王電鉄の車両に使われる赤と青の組み合わせ。
- ファミリーマートの店舗の外装に使われる緑、白、青、3色の組み合わせ。
音商標
音商標とは、音楽、音声、自然音などからなる商標であり、聴覚で認識される商標のことです。
実際に商標登録されている音商標としては、CMなどに使われるジングル(サウンドロゴ)、特定の音階を持った商品名や会社名の呼び方などが多いです。
中には、変わり種として次のようなものもあります。
- 円谷プロダクションによるウルトラマンのピコン、ピコンというカラータイマー音、同じくシュワッチという掛け声、適役怪人のフォフォフォフォという笑い声。
- イオンの電子決済端末が精算時に発するワオンという音声。
- NTTドコモの携帯端末が地震発生を知らせるブィッ、ブィッ、ブィッという緊急警報音。
位置商標
位置商標とは、文字や図形などの標章そのものだけではなく、商品などにつける位置が特定される商標を言います。
実際に商標登録された位置商標には次のようなものがあります。
*出願・係争中含む
- エドウィンのジーパンの右の尻ポケットにロゴが配された位置商標。
- ソニー・インタラクティブエンタテインメントのゲームコントローラーのボタン位置。
- タカラトミーのミニカーのタイヤ位置
施行前から使用している新しいタイプの商標の扱い
新しい商標が施行されたのは2014年です。
いままで商標として登録できなかった音や色が商標登録の対象になったことで、施行以前からすでに使用している新しい商標の扱いについて継続的使用権を認めています。
継続的使用権とは、施行日前から使用している新しいタイプの商標について、改めて商標登録をしなくても使い続けることができるということです。
ただし、位置商標については少し事情が違います。
位置商標は、商品などにつける商標の位置を特定したかたちの商標登録です。
したがって、商標そのものは従来の商標登録によって保護されているとい前提のため、継続的使用権が設定されていません。