推定5~6歳の小さな女の子が、手を合わせながら、「おててのしわとしわを合わせて・・・」と唱えるCM。
仏壇・仏具の製造販売大手、はせがわが長年にわたって提供してきたロングランCMです。
ところで、少女のセリフが終わり、「な~む~」と拝んだあと、バックに流れる会社紹介の音楽といえばなんでしょう?
「お仏壇のはせがわ~♪」じゃないの? というあなたは関東出身ですね。
実は、はせがわのCMは、地域によっては「はせがわ」ではないのです。いったいどういうことでしょう。
「お仏壇のはせがわ~」は関東と一部地域だけ
まずは、下のコマーシャル動画をご覧いただきましょう。
お仏壇のはせがわコマーシャル動画
このCMはスタンダードなバージョンで、少女が手を合わせ「な~む~」と唱えたあと、メロディに合わせて「お仏壇のはせがわ~」と、会社名を読み上げます。
しかし、これは関東を中心とした一部地域だけ。
なぜなら、はせがわの店舗は、関東以外だと、東海地方の愛知県、岐阜県の2県、九州の福岡県、佐賀県、大分県、山口県の4件のみなのです。
そこで、これ以外の地域でCMを放送する場合、基本的にはほとんど同じなのですが、会社名の「はせがわ~」のところが、それぞれの地域で提携している仏壇店の名前に変わります。
たとえば、長野県なら「おおたや~(太田屋)」、大阪だと「たきもと~(滝本仏光堂)」といった具合です。
つまり、このCMを見たときに、何という会社名を思い浮かべるかによって、出身地がわかるというわけです。
CMキャラクターの少女がなぜかハガレンに変身
ちなみに、CMに登場する少女は、同社のイメージキャラクターで「しあわせ少女」というそうです。
現在登場している女の子は「ゆうかちゃん」といいます。
初代しあわせ少女「ゆうこちゃん」、二代目「たばさちゃん」に続く三代目で、2001年から放送しています。
最近、このCMが別の意味で注目されるきっかけがありました。
スマートフォン用のゲームアプリとして人気の「モンスターストライク(モンスト)」のCMに、ゆうかちゃんそっくりのキャラクターが登場したのです。
問題のCMは、人気アニメ・漫画の「鋼の錬金術師」とのコラボ企画をPRするためのもので、この中で、5~6歳の女の子が登場。髪型も衣装もゆうかちゃんそっくり。
しかも「おててのしわとしわを合わせて・・・」という例のセリフまで丸パクリ。
ちょっと違うのは、少女が静かに手を合わせるところで画面が切り替わり、ハガレンの主人公エドワードが力強く手を合わせて、錬金術師の技である“錬成”を行う瞬間のポーズが映し出されるとことです。
鋼の錬金術師の中で手を合わせて拝むようなポーズをするシーンがあることから、はせがわのCMとして知られる「しあわせ少女」をかぶせたパロディとして制作したものだったわけです。
モンストのコラボCMが注目
とはいえ、ここまでパクッてしまって、問題にならないのでしょうか。
とくに注目したいのはCMの最後、バックミュージックに「お仏壇のはせがわ~」とまったく同じメロディで「モンストとハガレン~」と、流れるところです。
この「お仏壇のはせがわ~」というキャッチフレーズを、はせがわでは音商標として商標登録しています。
音商標とは、文字列や平面のロゴ・イラストだけではなく、音階やテンポ、メロディなど音を固有の商標として登録できる制度のこと。CMで使われるメロディなどが対象になります。
「お仏壇のはせがわ~」もまさに、そうした音商標の一つ。
では、その商標を拝借したモンストの運営会社、ミクシィは商標法違反にならないのでしょうか。
結論から言うと商標法違反にはなりません。
はせがわが登録した音商標は歌詞とメロディの組み合わせなので、歌詞が異なるモンストのCMは商標が混同されるわけではないからです。
とはいえ、当然、CMのつくり、セリフ、キャラクター、メロディ、すべて模倣しているのは明白なので、商標法違反に問えなくても、不正競争防止法違反や著作権法など別の法律に抵触します。
しかし、この点でも、問題ありません。実は、ミクシィ側では、事前にはせがわに許可を受けた上で使っているからです。
はせがわとしてもモンストのCMを問題視する考えはなく、むしろ歓迎する見解を示しているため、今回は、パロディとして許容の範囲内ということになりそうです。