“セコムしてますか”のキャッチフレーズでおなじみの同社。
もともとの社名は日本警備保障でした。
事業内容をシンプルかつ明快に表現した商標であり、日本に警備保障ビジネスを根付かせるのに多大な貢献をいています。
ところが、自ら確立したブランドをあえて捨て、多大な宣伝広告費をかけてまで、なじみのないセコム(SECOM)という商標を採用したのはなぜなのでしょうか。
警備保障という単語を作ったのもセコム
ご存知の方も多いと思いますが、セコムの前身、日本警備保障は日本で初めて本格的な警備保障ビジネスを事業化した会社です。
設立は1962(昭和37)年7月。前回の東京オリンピックが開催される2年前のことです。
創業者の飯田亮氏と戸田寿一氏が、ヨーロッパから帰国した友人に、「欧米にはセキュリティ会社があり、警備という仕事がある」と聞いたことがきっかけで事業化を思い立ち、日本で最初のセキュリティ会社が誕生しました。
この際、英語のセキュリティ(Security)に対応する日本語がなかったため、英語のニュアンスに近い意味の単語である“警備”と“保障”を組み合わせて“警備保障”と名付け、社名にも採用しました。
後に、この“警備保障”が一般名称化し、セキュリティに対応する日本語訳として定着します。
つまり、もともとは同社が作った造語だったのです。
日本に警備保障ビジネスを根付いていなかったため、創業当初は苦労したようです。
しかし、創業から2年後の1964(昭和39)年に開催された東京オリンピックで、選手村の警備を受注したことが飛躍の端緒になりました。
さらに、翌65(昭和40)年、警備会社が舞台のテレビドラマ「ザ・ガードマン」の大ヒットが同社の成功を決定づけたことはあまりに有名です。
ところが、それから20年ほどたった1983年、同社は自分たちで育てた“警備保障”というブランド名をあっさり捨て、セコムに社名変更するのです。
オンライン警備への転換が契機
同社が日本警備保障からセコムにブランド転換したのは、当初の主力だった人的警備から、オンライン警備に移っていったことが背景にあります。
警備事業のスタート当初は、警備員が施設に常駐するか、もしくは、複数の施設を巡回する人的警備が主流でした。
64年の東京オリンピックと、翌65年のテレビドラマのヒットによって、急速に知名度が向上し、事業が急成長していた同社ですが、途端に人員不足に陥ります。
なにせ、警備員という職業そのものがやっとできたばかり。もともと人材が少ない上に、急速な需要の拡大に人員が追いつきません。
そこで編み出したのがオンライン警備です。
窓やドアなどにセンサーを取り付け、不審者の侵入や火災などを探知するとコントロールセンターに緊急通報が入り、警備スタッフがかけつけるという画期的な仕組みです。
そして、オンライン警備という新しい事業のブランド名として、「セコム」という商標を作ったのです。
セコム(SECOM)は、「セキュリティ(Security)」と「コミュニケーション(Communication)」をつなげた造語です。
オンラインシステムを導入したことで、常駐・巡回式に比べてコストも安く、導入しやすくなり、1970年代にはすでに、オンライン警備が主力になっていました。
そこで、「警備保障」と「セコム」で使いわけていたブランドをセコムに統一。
後に社名もセコムに変更したというわけです。