大分県の三和酒類が生んだベストセラー「いいちこ」。
「下町のナポレオン」というキャッチフレーズもお馴染みの麦焼酎で、日本のみならず国外でも世界30の国と地域で販売されています。
ほとんどの人が、「いいちこ」がなければ「いいちこ」という言葉を聞くことはなかったかもしれません。
漠然と焼酎の商品名として多くの人が聞き流していただろう「いいちこ」には、実は深い意味があったのです。
今回は「いいちこ」の歴史とその名前の由来について調べました。
三和酒類は焼酎メーカーではなかった
1958年に設立された三和酒類は、かつては日本酒の酒造メーカーでした。
日本酒という商品の特性上、生産や消費が冬に集中しており、三和酒類が多忙なのは生産期のみでした。
さらに、1960年代半ばからは大手の日本酒メーカーが九州に進出することで日本酒の価格競争が激化。
三和酒類は苦境に立たされます。
そんな現状を打破するために焼酎製造に参入したのです。
しかし、最初にできた商品は麦焼酎特有の香りと濁りがあり、地元ではなかなか受け入れられず、当初は苦戦を強いられたようです。
それでもあきらめず、研究を続けた結果、従来の麦焼酎のクセの強さをおさえたさわやかな香りとすっきりした飲み口が特徴の麦焼酎を生み出すことに成功します。
新しく開発した自慢の焼酎を発売するのに当たり、三和酒造は名称を一般公募することにしました。
この結果、寄せられた候補の中から「いいちこ」に決定したのです。
「いいちこ」は大分県の方言で「いいですよ」という意味です。
地元に愛される焼酎となるようにという願いが込められているのでしょう。
なお、おなじみとなったキャッチフレーズ、「下町のナポレオン」も実は一般公募で決定したものでした。
営業活動は外注し研究に力を入れる社風
三和酒類は営業活動をほとんど行わないことで知られています。
宣伝広告部や商品企画部といった部署も存在しません。
それではいったい、どうやってテレビCMを行ったり、小売店や外食店への販売を行うのでしょう。
実は、販売や宣伝のすべてを外注しているのです。
広告戦略はアートディレクターの河北秀也が取り仕切っており、CMの企画、演出、編集はもちろん、テレビCMで聞いたことのある渋い声のナレーションも実は河北氏自身が吹き込んだものです。
いいちこのボトルデザインを担当したのも河北氏で、「フラスコボトル」「パーソン」「スペシャル」の各ボトルデザインは数々の賞を受賞しています。
このように、宣伝公告や営業を外注しているのは、研究に集中するためです。
三和酒類は自前のプラント施設をはじめとする研究環境の整備に力を入れ、メイン素材である麦の研究を始め、所員個人が各々の研究テーマに専念できるようにしているのです。