「商標登録をとりあえず自分でやってみたい」
「商標登録になるべくお金をかけたくない」
このように考えて商標登録を「自分でどうやるのか」を具体的にできるだけ分かりやすく知りたいですよね。
しかし、登録商標は「あえて難しく書いているのか?」と思ってしまうくらいややこしいため、しびれを切らして商標登録を弁理士に依頼している方もいらっしゃったりします。
私は、なにがなんでも我々のような弁理士などの専門家に商標登録をお願いすべきとは思っていません。
そこで今回は、商標登録を自分で行えるように図解でできるだけ分かりやすい本記事を作成しました。
自分で商標登録を行う前に最低限覚えるべき用語4選
自分で商標登録を行う際には最低限覚えるべき用語が4つあります。
- 商標
商品名、店名などの『名前』や『ロゴマーク』『シンボルマーク』のことです。 - 役務(えきむ)
サービス業で取り扱う『サービス』のことです。ホテルや学習塾、通信業、広告業など目で見えないものです。 - 商品
役務とよく間違われるのが『商品』です。洋服や機械、おもちゃ等の形あるものを『商品』と呼びます。 - 区分(くぶん)
業種のことを区分と言います。商標登録では、区分も指定する必要があります。
上記の4つを頭に入れておくと、これから解説していく商標登録の方法が理解しやすくなりますので、必ず覚えておきましょう。
商標登録の流れ【図解】
まず、商標登録の大きな流れを説明します。
商標登録の大きな流れとしては、次のようになります。
一番のキモとなる部分は、商品・役務の分野の“決め方”になります。
その理由は、商標登録できる商品・役務の分野が特許庁で決められいて、決められた分野を間違っただけでも、商標登録できなくなってしまうことがあるからです。
さらに、商品・役務の分野が、みなさんのビジネスに合致したものでないと、せっかく商標登録できても、しっかりとみなさんの商標を守ることができなくなってしまうからです。
結果的に、商標登録できたはずなのに、商品名・サービス名をマネされて、商品・サービスが売れなくなってしまいます。
自分で商標登録するための5ステップ
1.商標を決める
そもそも商標とは、商品やサービスを販売・提供する際の『商品やサービスに付ける名前やロゴ』のことです。
意外な例を言えば、インターネット上のWEBサイトのサイト名も商標になります。
そして『商標登録する商標を決めること』とは、登録したい『商品名・サービス名・ロゴ等』を決めることです。
文字だけでなく、図形も商標登録できますし、文字と図形を組み合わせたようなロゴも、商標登録できます。
詳しくは『商標登録とは何か』を参考にしてくださいね。
2.商標登録する商品・役務(サービス)の分野や区分を決める
商標登録する商品・役務(サービス)の分野(カテゴリ)とは、みなさんが販売、提供しようとしている商品・役務の分野です。いわゆる、みなさんのビジネス分野です。
ここで、分野を決める際に注意することは、将来的なビジネスの展開を含めて、商品・、役務の分野を決めることです。
すなわち、みなさんが実際に販売、提供している商品・役務の分野は当然含めますが、近くやりそうな商品・役務の分野も含めることも注意しましょう。
その理由は、決めた商品・役務の分野が、ビジネス分野からかけ離れていると、商標登録しても、確実にみなさんのビジネスを守れなくなってしまうからです。
以上のようにして、商品・役務の分野を決まったら、次に、区分を決めなければなりません。
区分は、以下の表のように第1類~第45類までで全部で45区分あります。
第1類~第34類が商品の分野になり、第35類~第45類が役務の分野になります。
この区分は、特許庁の『各類に属する代表的な商品・役務(2020年1月1日以降の出願に対応)』を見て該当する区分を確認して下さい。
3.商標登録できるかを調べる
商標登録ができるかを調べる理由は、主に2つあります。
- 商標登録するには少なくとも印紙代もかかる
- 商標登録が完了するまで少なくとも1年近くかかる(2020年現在)
上記の通りで、お金と時間を無駄にするような商標登録を避けるためです。
加えて、商標登録できるか調べるメリットとして見落としがちな重要なことが2つあります。
- 商標登録できない可能性が高い商標が分かる
- 既に自分のビジネスが商標権侵害をしていないか分かる
先に商標登録されているものがあるから、商標登録できないから諦めようといったことで済まなく、商標権侵害していることで訴えられてしまう可能性があるということです。
このように、商標登録できるを調べることは非常に重要なので、『特許情報プラットフォーム』で以下のように調べることが重要です。
まず、『称呼(読み方)が類似する商標』を以下のように調べてみましょう。
引用:特許情報プラットフォーム
引用:特許情報プラットフォーム
次に『同じ文字を含む商標』について調べてみましょう。
引用:特許情報プラットフォーム
このように商標登録ができるかを調査してみましょう!
4.商標登録に必要な書類を準備する
自己流で書類を作成することはできなく、商標登録の申請のための書式が決められています。
必要な書類は、こちらになります。
この書類は、特許庁の『各種申請書類一覧(紙手続の様式)』からダウンロードできます。
『1.願書等様式(通常出願)』の『商標』の『Wordデータ』をダウンロードすれば、データに直接書込みできます。以下の表を参考に願書を記入してみましょう。
書類名 | 商標登録出願のままでOK |
整理番号 | 管理しやすい好きな番号を書く (10桁以内でローマ字・算用数字・ハイフンは使用可) |
提出日 | 郵送の場合:郵便局で郵送した日 特許庁に直接提出する場合:特許庁へ提出した日 |
あて先 | 特許庁長官殿のままでOK |
商標登録を受けようとする商標 | 商標登録する文字やロゴ等 |
第 類 | 商標登録したい区分を書く |
指定商品(指定役務) | 登録したい商標の詳細情報 |
識別番号 | 1度目の出願の場合は空欄でOK 2度目以降はすでに発行されている識別番号を記載 |
住所又は居所 | 法人の場合:登記した住所 個人の場合:住民票の住所 |
氏名または名称 | 法人の場合:会社名 個人の場合:氏名 |
代表者 | 法人の場合:代表取締役の名前 個人の場合:空欄でOK |
印 | 法人の場合:代表者印 個人の場合:苗字の記載がある印鑑 |
国籍 | 日本人以外の場合は記載 |
電話番号 | 連絡のとれる電話番号を記載 |
物件名 | 空欄でOK |
この書類に記載する「出願人」の情報は、商標登録する名義人の情報になります。出願人は、個人でも、法人でもなれます。
ここでの注意点は『法人の場合、登記住所を記載すること』です。
また、個人の場合は、住民票の住所でなくても良いですが、特許庁からの重要書類が送られてくる住所になるので、連絡が取りやすい住所をお勧めします。
また、願書の記載が間違っていると、特許庁では書類を受け取ってくれませんので注意してくださいね。
5.印紙を貼って提出する
印紙は、収入印紙でなく、『特許印紙』です。
印紙という言葉を聞くと、収入印紙に飛びつきがちですが、願書に貼るのは『特許印紙』です。
また、収入印紙は、近所の郵便局、コンビニでも売っていますが、『特許印紙』は、コンビニではなく主要な郵便局でしか売っていません。
特許庁でも特許印紙を売っているので、特許庁に書類だけもっていき、提出前に販売窓口で特許印紙を購入して、特許印紙を貼って書類を提出しても良いと思います。
また、提出方法ですが、インターネットを使った電子出願もできますが、電子出願のための準備が大変なので、郵送で、又は特許庁の窓口に直接提出することをお勧めします。
また、特許庁の窓口にもっていくと、担当者が書類の記載不備を確認してくれるのでおすすめです。
※2020年現在、商標登録が完了するまでの審査期間は、約1年近くなっていますのでミスは絶対避けましょう!
出願前のチェックリスト
最後に出願前のチェックリストを添付します。このチェックリストを使うことで、記載の漏れ、ミスを減らすことができます。
商標登録の申請をした後の流れ
商標登録の申請をすると、後日、特許庁から商標登録出願番号の通知が届きます。
特許庁との今後のやり取りは、商標登録の出願番号をベースに行われるので、商標登録の出願番号は、大切に保管しておいて下さい。
また、商標登録の申請をすると、特許庁では、商標登録できるかどうかの審査に入ります。
2020年時点では、審査の結果が出るまで約1年かかります。約1年の審査期間?と思ってしまいますが、その期間のほとんどが、審査までの待ち時間になります。
基本的には、申請された順序で審査が開始されますので、その順番待ちの時間になります。
なお、早く審査結果を知りたい場合には、2カ月程度で審査結果がわかる早期審査の制度がありますので、その制度を活用すると良いです。
詳しくは『商標早期審査・早期審理の概要(特許庁サイト)』を参考にしてみましょう。
商標登録のデメリット・注意点
我流でも商標登録できてしまうという落とし穴
商標登録出願は、通常、弁理士が代行するのが一般的ですが、有資格者でなければならない、という決まりはありません。
そのため、商標権者自身が自分で申請すること自体は可能です。
そこで、見よう見まねで申請書類を作成してみた結果、見事に商標登録できたということが実際にあります。
しかし、商標を保護するという本来の目的からすると、非常に危うい状況です。
特許庁は役所なので、書類に不備がなく、先に類似商標が登録されていないなど、形式上の要件がそろっていれば、申請を受理する立場です。
したがって、法律事務の知識や経験のない人が、商標登録のポイントをよくわかっていないまま我流で申請しても、審査を通ってしまう可能性は十分あるわけです。
これをして、「やってみたら、意外に簡単にできた」というのは、木を見て森を見ず、という状態であると言えます。
つまり、商標登録できたからといって、「これで商標が望んだ通りの形で守られる」、と安心することはできないのです。
区分指定の落とし穴
自分で商標登録出願を行った場合、もっとも大きな懸案は、区分指定です。
区分指定がいかに重要で、難しいのかということについては、別の記事で詳しく解説していますのでここでは簡単に言います。
区分指定というのは、商標を使う範囲を特定するためのもので、商品やサービスの種別ごとに45の区分に分類しています。
商標登録する際には、使用する商標だけではなく、どこからどこまでの範囲で商標を使用するか、区分を指定しなければなりません。
商標を適切に保護するためには、区分の範囲を使用実態に合わせて適切にとらなければなりませんが、指定すべき区分に漏れがあるのはもちろん、不要なところまで無駄に広くとりすぎても意味がなくなってしまいます。
いかに適切な範囲で指定区分を設定できるかが極めて重要で、それこそ専門家である弁理士の腕の見せ所であり、経験のない人が一朝一夕にできることはないのです。
自分でやるとかえって費用が嵩んでしまう落とし穴
商標登録を、専門家である弁理士に依頼せず、自分でやることのメリットはなんでしょうか。
もっとも大きなメリットは、『弁理士に支払う手数料が節約できる』ということです。
しかし、メリットはそこだけになってしまうのも事実としてあります。
慣れない作業に四苦八苦しながらなんとか商標登録できたとしても、その経験が生きる機会が次に訪れるのはいつのことでしょうか。
自分で商標登録しても、弁理士に依頼しても、結果は同じになることの方が少ないのが商標登録のややこしいところでもあります。
弁理士の方が商標登録に成功する確率が高く、また、しっかり商標を守れるように設定してくます。
それでも、本当に弁理士費用が節約できるならまだ何かしらの意味があるでしょう。
しかし、弁理士に依頼せずに自分でやった結果、かえって高くついてしまうこともあります。
たとえば、書類に不備がある場合です。
商標登録が行政手続きの一種であり、書類の形式は非常に厳格です。
慣れていない人が書類を作成すると、時間を取る上に間違いも多く、何度も突き返されているうちに、時間と費用がどんどんかさんでしまいかねません。
さらに、商標登録の審査に通らなかったときの不服審判や異議申し立てなどに進めば、期間にして1年以上はかかるでしょう。
「そんなにかかるなら」ということで断念すれば追加の費用はかからなくても、それまでかけた時間と労力がすべて無駄になります。
専門家である弁理士がやっても審査に通らないことはもちろんあるのですが、少なくとも慣れている弁理士であれば、出願しようとしている商標が審査に通りそうか、苦戦しそうか、事前に見立てができます。
したがって、あまり難しそうなら、最初から出願しないという選択もとれると思います。
商標登録したらもう安心と思ってしまう落とし穴
慣れない作業に四苦八苦しながらも、晴れて商標登録が実現したとします。
前述した、区分指定の問題などがない状態できちんと商標登録できたという前提であれば、これで、あなたの商標は法律的に保護されることになります。
「さあ、これでもう安心だ」
と思ったら少し安心するのは早いかもしれません。
商標登録によって、その商標の独占使用権があなたにあることが完全に保証されている状態になることは確かです。
けれど、いったい誰が商標を守ってくれるのでしょうか。
無関係な第三者があなたの登録した商標を勝手に使っていたらどうでしょうか?
一般的な手続きに従えば、相手に警告文を送り、商標の使用中止や損害賠償を求め、応じない場合は裁判など次の展開に移ります。
それを自分でやるのでしょうか。
もちろん、こういう段階になるとさすがに自分では手に負えず、弁理士や弁護士に依頼することになると思います。
それにしても、結局、弁理士の手を借りることになるなら、商標出願する前の段階から、後のブランド管理まで考えた上で手続きを進めたほうが、はるかに効率もよく、ビジネスを進めていくうえでも有利になるはずです。
以上、商標登録を自分で行って、仮に商標登録できたとしても、いくつもの落とし穴があります。
落とし穴を理解した上で慎重にご自身で商標登録にチャレンジして欲しいと思っています。