ネーミングをめぐる物語「エスビー食品」

カレーと言ったらエスビー。

エスビーと言ったらカレー。

そう言っても過言ではないほどレトルトカレー、カレー粉の国内メーカーとして不動の地位を築いているエスビー食品。

その歴史は、まさに、カレーと共に歩んだ道のりでした。

今回は、エスビー食品の歴史と、商標の由来に迫ります。

目次

日本初のカレー粉はどっち

カレー粉の歴史は古く、インドの食文化をイギリスの会社であるクロス・アンド・ブラックウェル社が導入し、イギリス人の口にあうようスパイスを調合して独自ブレンドのカレー粉を商品化したのが18世紀のことです。

調理のたびに複雑なスパイスの調合をしなければならない元祖インド式に比べて、イギリス仕込みのカレー粉はパパッと振りかけるだけで何でもカレー味になります。

カレー粉の普及により、カレー食はまたたくまにヨーロッパ全土へと広まりました。

そのカレー粉が日本に伝わったのは明治時代の話です。

国内で初めてカレー粉を作ったのは江戸時代に創業した薬問屋を起源とする食品メーカーの大和屋(現ハチ食品)という会社でした。

同社が「蜂カレー」を発売したのは1905(明治38)年のことです。

遅れること18年後、都内のソース店に勤務する若干20歳の青年だったある山崎峯次郎氏が独自にカレー粉の開発に成功。

エスビー食品の前身で日賀志屋(ひがしや)が創業しました。

日本でカレー粉を初めて開発して販売したのはハチ食品に違いありません。

しかし、エスビー食品側も「純国産カレー粉を日本で初めて開発して販売したのはエスビー食品」と主張しています。

両者の主張はそれぞれあるとして、その後、急速に成長したのは日賀志屋でした。

カレー産業の発展とともに成長したエスビー

カレー粉の好調な販売実績とともに会社は成長。

1949年に商号を現在のエスビー食品に変更しました。

国内のカレー産業はエスビー食品とハウス食品の2強が寡占している状況ですが、特にカレー粉市場ではエスビーのシェアが80%を占める独占状態です。

まさにカレー粉とともに成長したカレー産業の申し子と言えるでしょう。

ここまで説明して、“エスビー(S&B)”という商標がどこから出てきたのか、疑問に思った方かもいるかもしれません。

よくあるパターンとしては、商品名やブランド名を社名にするケースですが、同社の場合はこのパターンではありません。

もう一つのパターンは旧社名を簡略化するケースですが、同社の旧社名は日賀志屋です。SもBも見当たりません。

それなら、いったいエスビーという商標はどこから来たのでしょうか。

エスビーの商標の由来はロゴにあり

エスビーという商標の由来は1930年に制定したロゴ商標にあります。

ロゴ商標に描かれていたモチーフは太陽の化身とされる創造上の動物「ヒドリ」でした。

ヒドリを英語に直すと「sunbird」です。

すなわち、Sun(太陽)、bird(鳥)それぞれの頭文字をとって「エスビー(SB)」としたのです。

後になって、ここに「スパイス&ハーブ(SPICE & HERB)」の略であるという意味付けも追加されました。

エスビーの英語表記はSBではなく、S&Bです。「エス・アンド・ビー」とは読まず、あくまでエスビーと読ませます。

では、「&」にはいったいどんな意味があるのでしょうか。

会社側はとくにこの点について言及していないのですが、定説としては、世界で初めてカレー粉を商品化したイギリスの老舗メーカー「クロス・アンド・ブラックウェル社」を意識したと言われています。

意外と知られていない本当の商標

ところで、ここまであえてエスビー食品と表記してきましたが、登記上の正式な商標は、「エ」が旧字体になった「ヱスビー食品」です。

対外的には新字体を用いた「エスビー食品」を商標として使っているため、両方の商標が混在している状態です。

なぜわざわざ旧字体を商標登録したのでしょうか。

それは、商標の漢字表記が恵寿美だったからと言われています。

恵寿美の恵は旧字体でゑと書きます。

これがカタカナになるとヱになるというわけです。

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