往年の人気ロックグループ「イーグルス」の関係者が、メキシコのホテルが自分たちの商標権を侵害しているとして、損害賠償を求める訴えをカリフォルニア州連邦地裁に提訴していることが5月2日、報道などで明らかになりました。
同グループの代表曲にして70年代ロック界でもっとも成功した伝説的な曲「ホテル・カリフォルニア」の舞台であるかのように装って営業していたことを問題視したものです。
実在しない架空のホテルのはずだった
イーグルスの名曲、「ホテル・カリフォルニア」を知らない人はあまりいないでしょう。
発表されたのは1976年のことですが、70年代ロック界を代表する楽曲として長く愛され、40年たった現在でもカバーやリミックス版の発表が絶えません。
念のために説明しておくと、この曲はイーグルスのアルバム『ホテル・カリフォルニア』のタイトル曲として発表され、その印象的な旋律と奥深い歌詞の魅力でたちまちヒットし、同年のビルボード誌で全米チャート第1位を獲得しました。
楽曲のタイトルでもあり、作品世界のもっとも重要な位置を占める「ホテル・カリフォルニア」は、カリフォルニア州の砂漠エリアのハイウェイ沿いに建つという設定の“架空のホテル”。つまり実在しません。
ところが、訴えられたホテルは、まるで「ホテル・カリフォルニア」のモデルであるかのように装っていたというのです。
モデルであるかのように装う行為は商標権の侵害と主張
問題のホテルは、メキシコのバハ・カリフォルニア・スル州の観光地トドス・サントスにある、その名も「ホテル・カリフォルニア」です。
イーグルス側が問題視したのは、ホテル側が館内でグループの曲を流し、売店で関連品などを販売していたことです。
これらは、グループの楽曲の知名度にただ乗りした行為だとして、曲の使用や関連販売を停止し、これまでに得た利益を損害賠償として支払うように求めています。
ホテル側では、ホームページなどで“イーグルスとは関係ない”とことわっていますが、多くの宿泊客は楽曲の世界観に浸る目的で訪れているということです。
あやかっているだけで商標権の侵害を問えるか
今回の訴えでは、「ホテル・カリフォルニア」という商標を使用していることは、問題にされていません。
ここが少し微妙なところです。
ホテルは、グループが楽曲を発表する20年ほど前の1950年代にはすでに「ホテル・カリフォルニア」の名前で営業していた事実があるからです。
その後、いったん名称を変更して営業していましたが、2001年に現在のカナダ人経営者が買収した際、ホテル・カリフォルニアの名称を復活させたものです。
ホテル側が、楽曲の世界観とのつながりを意識しているのは間違いないと思われるものの、「曲のモデルである」と表明しているわけではないし、“装っている”というより、“あやかっている”状態です。
では、イーグルスの訴えはまったく聞き入れられないのでしょうか。
商標法で問題にするのは「消費者の混同を招くかどうか」です。
商標の重要な役割の一つが出所表示機能というもので、一言で説明すると、同一の商標を持つ商品やサービスは、同一の提供者が提供しているものと認識される機能です。
この点で、宿泊客は楽曲の世界観に浸ることを目的としており、消費者の混同を招いている可能性が示唆されます。
むろん、使用する側が勝手に勘違いしているとも言えるわけで、カリフォルニア州当局の判断が注目されます。
参考:
産経ニュース 「ホテル・カリフォルニア」のモデルのような営業は商標権侵害 イーグルスが提訴
Amass イーグルスがメキシコの“ホテル・カリフォルニア”を商標権侵害で訴える
共同通信 名曲の商標権侵害とホテル提訴、米ロックバンドのイーグルス
日本経済新聞 イーグルス、名曲の商標権侵害と提訴 メキシコのホテル名で