時代劇水戸黄門ですっかりお茶の間のおなじみになった水戸徳川家の家紋「三つ葉葵」にそっくりの商標が水戸市内の事業者によって商標登録されたのは無効だとして、徳川家の子孫が異議を訴えていた問題で、2月28日、特許庁は異議を認め商標登録を取り消す通知書を送付しました。
商標登録した水戸市の会社が通知書の到着から30日以内に、知的財産高等裁判所に不服を申し立てなければ無効が確定します。
水戸の黄門様の印籠が商標登録できてしまうということに驚いた方がいるかもしれません。
実は家紋商標登録についてはいろいろな議論があり、商標登録を認めるべきかどうか意見が割れているため、特許庁の審査を難しくしているようです。
特許庁は登録商標を無効と判断
三つ葉葵にそっくりのデザインの図柄を商標登録したのは水戸市内のイベント会社。
お守りや日本酒のラベルのデザイン、伝統芸能の上演などに使う目的で商標登録出願したということです。
商標登録は2015年12月にいったん認められました。
これに異を唱えたのが徳川家15代当主の徳川斉正さんが理事長を務める公益財団法人徳川ミュージアムです。
徳川家の三つ葉葵の御紋は日本中誰でもよく知る図柄であり、時代が時代なら、日本最高の権威の象徴だったものです。
それこそ、ドラマの水戸黄門のように、この御紋を出されたらみなその場にひれ伏さなければならなかったほどのものです。
そんなマークを特定の企業や人が独占的に使うべきではない、というわけです。
イベント会社は図柄を「三つ葉葵」と特定しているわけではありませんが、見た目は寸分たがわぬほどそっくり。
特許庁も徳川ミュージアム側の主張を認め、商標登録を無効とする決定を下しました。
著名なマークは商標登録できないルール
商標法では、権威の象徴となるような有名なマークに似せたデザインの図柄の商標登録を禁じています。
外国の国旗、国連および関連団体のマーク、国内の主要行政機関、特定団体のロゴマークなどです。
たとえば、皇室や警察が使っている菊の御紋などを誰か特定の個人が商標登録してしまったらたいへんな問題になることが容易に想像されます。
したがって、誰もが知るような有名なマークや図柄は、特定の企業や個人に独占使用を許すべきではないという運用ルールがあるのです。
今回のケースでは、特許庁はこの運用ルールを適用したものと思われます。
家紋の商標登録を認めるべきか否かという議論
確かに、三つ葉葵の家紋は、国民的時代劇となった水戸黄門ですっかりおなじみになり、かつては、日本最高の権威の象徴でした。
商標登録を無効とした特許庁の判断は適切のように思えます。
家紋の商標登録については、様々な議論があります。
そもそも、家紋を商標として特定の企業や個人に独占させてよいのか、という問題があります。
ご存知のように、家紋は各家庭に代々伝わるものですが、同じ家紋をたくさんの家が共有しています。
たとえば、国内でもっとも多い片喰紋(かたばみもん)は、図柄の微妙な違いも含みますが、総世帯の9%が使っています。
単純計算で、ざっと360万世帯、約1000万人が先祖から受け継いだ共有財産ともいえます。
有名無名にかかわらず、自分がデザインしたわけでもないのに、先祖代々受け継がれている歴史的な紋を誰かが独占してしまってよいのか、というと確かに疑問符がつきます。
伊達家家紋や真田家家紋も商標登録されている
家紋の商標登録を認めてよいかどうか、という議論がある半面で、実際に、商標登録できるという現実があります。
有名なところでは、戦国時代の武将としても有名な伊達家の家紋を伊達家34代当主の伊達泰宗氏が商標登録しています。
現在では、伊達家伯記念會という会社が管理し、伊達家家紋を使用する場合は、年間使用料として1万円~5万円、開始時に事務手続き料4000円という料金設定になっています。
また、今回問題になった三つ葉葵についても、住友化学工場が、よく似たデザインの紋章を1997年に商標登録しています。
その他、真田幸村で知られる真田家の六文銭、武田家の武田菱など、商標登録されている家紋は結構あります。
とはいえ、こういった有名な家柄の家紋ならまだしも、無名家紋になると、特許庁もデータをもっていないでしょうから、自分でデザインした紋なのか、それとも、伝統的に使われてきたものなのか、さらに判断が難しいところでしょう。
特許庁の審査でも、いったん認めておいて、異議が出れば無効にするなど、腰が定まっていない印象です。
今後、家紋の商標登録についてどのように扱うか、さらなる議論を呼びそうです。
参考:
伊達家伯記念會
朝日新聞デジタル 「葵の御紋」そっくり、商標登録 徳川側、特許庁に異議
産経ニュース 水戸徳川の家紋にそっくり 特許庁、登録商標取り消し
YOMIURI ONLINE 「黄門様の紋」に似たマーク、商標登録取り消し