スーパーマリオのキャラクターのコスプレで、公道を疾走するゴーカートの列を、そういえば最近よく見かけた覚えがあります
スーパーマリオと言えば、ご存知、任天堂が生んだ人気ゲームのキャラクターです。
そのマリオに登場する衣装を身に着け、街中をゴーカートで疾走する様は、まさにリアルマリオカート状態です。
外国人観光客などに人気のサービスで、このために来日するフリークもいるのだとか。
ところが、そんな人気サービスをめぐって、著作権を持つ任天堂と、サービスを提供する会社の間で係争に発展しています。
両者の主張は真っ向から対立
ゴーカートのレンタルをしていた会社は、都内に本社があるマリカーという会社。
任天堂ともマリオカートともまったく無関係の会社です。
報道によると、任天堂は数カ月前から、マリカーに対して警告してきたということですが、誠意ある回答が得られなかったとして、2月24日、著作権の侵害や不正競争防止法違反によって被った損害1000万円を賠償するよう東京地裁に訴えを起こしたということです。
任天堂に無断でやっていたわけで、それは、さすがにまずいでしょう、と思ったら、同日夜、提訴を受けてマリカー側も声明を発表しました。
これによれば、サービスのスタートにあたり、複数の弁護士・弁理士と協議の上、法的問題はないと判断していること、さらに、任天堂とも直接話し合いを重ね、著作権の侵害などの指摘を受けたことはないことなどを主張。
また、この問題が世間の注目を集めたことで、同社のウェブサイトや電話回線がパンクし、連絡がとれない状態が続いており、そのせいで利用客が迷子になる事態が発生しているなど、「被害を受けているのはこちら」と言いたげです。
著作権の侵害をしているのか
任天堂は数カ月前から警告していたといい、これに対してマリカー側は直接話し合いをしていたといい、お互いの主張にずれが生じています。
いずれの主張が正しいのか、裁判で明らかになるのを待つとして、著作権の侵害をしているのかどうか、ということについて考えてみたいと思います。
ゴーカートは公道を走れる仕様になっており、普通に道を走っているぶんにはまったく問題ありません。
任天堂が著作権を持つキャラクターの衣装をレンタルすることも、特に問題ありません。
さらに、その姿でカートに乗って街を走ったとしても、著作権の侵害には当たらないはずです。
では、任天堂は何を問題視したのでしょうか。
それは、任天堂が著作権を持つキャラクターの扮装でカートを走らせている姿を写真や映像にとって宣伝・営業に使っていたことです。
これは、著作権法の、次の条文に抵触する可能性があります。
(貸与権)
第二十六条の三 著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。)をその複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあっては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供する権利を専有する。
マリオに登場するキャラクターの扮装でカートを走らせるその姿は、ゲームの中のシーンをリアルに再現しています。これをもって「複製」と認められる可能はあります。
そもそも、マリカーのサービスがヒットしたのは、ゲームの世界観をそっくり疑似体験できるところにあります。
公道用のゴーカートをレンタルするサービスは決して新しいビジネスではありません。「マリオ」という看板があるからこそ、世界中からこぞって利用者が押し寄せているわけです。
それだけの魅力的な世界観を作ったのはもちろん、任天堂です。
マリカー側は魅力ある著作物の力を借りて、営業を行っていたわけで、任天堂の主張に分があるように思えます。
とはいえ、お互いが話し合って合意を得た上で営業を行っていたならこの限りではありません。
今後、裁判でどのような主張が展開されるかに注目したいと思います。
商標を巡っても争っている最中
任天堂とマリカーの争いは、いまに始まったことではなく、実はすでに、昨年9月から、商標を巡って展開されています。
マリカー側が2015年に商標登録した自社の社名「マリカー」に、任天堂が異議を申し立てたのです。
商標出願・登録情報によると以下の通りです。
1)
商標:マリカー
出願人:株式会社マリカー
出願日:2015年5年13日
登録日:2016年6月24日
状態:係属 / 存続-登録-異議申立中
2)
商標:マリカー
出願人:尾田久敏
出願日:2015年12月9日
状態:係属 / 存続-出願-審査中
3)
商標:MariCAR
出願人:株式会社マリカー
出願日:2016年9月28日
状態:係属 / 存続-出願-審査待ち
4)
商標:§MARICAR
出願人:株式会社マリカー
出願日:2016年9月28日
状態:係属 / 存続-出願-審査待ち
最初に出願された「マリカー」はすでに登録されていますが、ほかの3つの商標出願は審査中、審査待ちの状態です。
また、最初に商標登録出願された「マリカー」も登録はされているものの、異議申立中になっています。
ちなみに、「マリカー」を商標出願しているもう一人の人物、尾田久敏氏もまったく無関係の第三者です。
どうも、この人も他人の商標を勝手に商標登録出願しているようですが、その件はまたいずれ別の機会に。
任天堂はマリカーとしては商標登録していませんが、「マリオカート」の愛称として広く、普及している単語です。
マリオカートは任天堂が作ったゲームの商標だということは世界中の人が知っていますので、愛称を社名にしていることにより、任天堂に関係している企業だと消費者に誤認を生じさせる可能性を指摘したということでしょう。
これも、どちらの主張が認められるかいまのところわかりません。
係争の行方を見守りたいと思います。