他者に商標権がある商標の先取り出願に当たる不正な手続きが大半と見られており特許庁でも問題視していました。
問題の男性は数年前から大量出願を始め、その意図や狙いなどは明かされていませんでしたが、このたび、朝日新聞が初の単独インタビューに成功しました。
毎年1万件以上の商標を大量出願
問題の男性は大阪でベストライセンスという会社を経営する上田育弘氏。
個人名と会社名義で合わせて毎年1万件を超える商標を出願し続けている人です。
国全体の商標出願数が年間10万件強なので、個人で1割に相当する出願をしていることになります。
異常な数から、正当な商標出願ではないだろうと見られていましたが、案の定、男性が出願している商標は他者に商標権があると思われる商標が大半をしめています。
一例を上げると、
- 大ヒットしたディスニー映画のタイトル「アナと雪の女王」
- 開通したばかりの「北陸新幹線」
- X-BOX以外の「A-BOX」~「Z-BOX」まで
- STAP細胞問題で有名になったフレーズ「STAP細胞はあります」
- NHK朝の連続テレビドラマで使われ流行語になった「じぇじぇじぇ」
などなど。
ニュースになったり話題になったりしたフレーズを片っ端から出願している様子がうかがえます。
特許庁でも問題視
商標法では自身の業務に関係のない商標、あるいは、他人の著名商標の先取りとなるような商標出願を認めていません。
男性は出願にかかる手数料を一切支払っていないことから、手続きにも問題があります。
いずれにしても不正な出願であることから、商標登録が認められる可能性は低く、すべての出願が半年から10カ月程度待てば却下されることになります。
とはいえ、特許庁としては不正な出願とわかっていても、手続き上の瑕疵がなければ受け付けざるを得ず、また、却下されるまでの期間は出願中として公開されることになります。
中には、出願中であることを知った本来の商標権者が商標登録を断念してしまうケースもでていることから問題視され、特許庁では異例の注意勧告を行っていました。
売買目的の出願だとあっさり認める
却下されるのをわかっていて大量出願している理由は何なのか。
他者に先駆けて出願の既成事実を作り、ライセンス料などを狙っているのだろうと思われていましたが、男性がとくに意図を表明していなかったため、本当の理由は謎でした。
それが、今回、朝日新聞による単独インタビューで明かされています。
記者に大量出願の理由を問われると、男性は「将来自分で使う、他人に権利を譲渡する、先に出願しておくことで権利を仮押さえする、三つが狙い」と、売買目的であることをあっさり認めました。
記事によると男性は元弁理士で、2013年に弁理士会の会費を滞納して登録を抹消され、出願代理人として活動できなくなったころから大量出願を始めたということです。
男性の行為が、権利の売買目的など制度の趣旨を大きく逸脱したものであるということが朝日新聞の取材ではっきりしたのです。
しかし、問題がはっきりしたからといって解決とはならないところが難しいところです。
不正な出願を防止する何らかの処置を
商標法では業務に関係のない商標の出願や他人の著名商標の妨害、売買目的などの出願を認めていませんが、これからの不正な出願は商標登録が認められないというだけで罰則規定はありません。
つまり、男性がこれからも出願を続ける限り特許庁では通常通り受け付けをせざるを得ず、法的に男性の行為を止めることはできないのです。
男性の行為は制度の趣旨に反しているだけではなく、不正な目的によって制度を悪用し、他人の商標権を侵害しています。
加えて、不必要な大量の出願によって特許庁職員の業務を妨害し、本来行われるべき通常の商標出願の手続き業務などに支障を与えかねず、現実に多くの職員の労働時間を不当に奪っていると言ってもいいでしょう。
男性は不正な出願をやめるつもりはないようで、今後も不正な目的のために他者の商標権の侵害が行われ、特許庁の業務を妨害し続けることになります。
さらに、男性と同様の不正な出願を真似するケースが出てこないとも限りません。
実際すでに、似たような不正出願の事例がちらほら散見されている状況です。
今後もこのような状況が続くなら、不正な出願を防止するなんらかの対抗処置を設ける必要に迫られるでしょう。